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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

アトランタ五輪では、「ドリームチーム」と呼ばれた米国バスケットボールチームが大活躍し、金メダルを獲得しました。
...というわけで、ワタクシ的には「ドリームチーム」といえば、アトランタ五輪です(ジツは3代目で、最初に「ドリームチーム」が選抜(?)されたのは1992年のバルセロナ五輪だったらしいですが)。

そういう「最強チーム」が、文句なく格好よく、ばったばったと敵をやっつけていく(そのさい「何でヒーローには弾が当たらへんねん」的なツッコミは禁句です、ヒーローは死んだらあかんのです)お話を書きたくなって書いたお話の冒頭部分。「?」な方は「新・ひと休み」の前書きを。もしくは生暖かくスルーで。

主人公の少女が「TVを見るかマンガを読むくらいしかすることがない」と入院生活を嘆いていますが、初出当時、スマホはまだこの世に登場していなかったということでお許しを。
お暇のある方のみさくっと流してください。
事情により、「ばったばった」の前でぶった切ってます。
これは、世に言う「二次創作」というヤツです。固有名詞は全部アルファベットに置き換えましたが、万一元ネタに気づかれた方は、ご自分の胸に納めて密かに苦笑などして頂ければありがたく。

*** ***

 アイリーンは、もう半年以上、病院にいる。
 ときどき熱っぽかったり、身体がだるかったり、かゆくてたまらなかったりするけれど(最後のはお薬のせいらしい)、猛烈なかゆみ以外は風邪を引いた時と同じ感じだったから、自分では、特に悪いところがあるとは思えない。けれど、それが「ケッカク」というこの病気の怖いところなのだと先生も看護師のお兄さんお姉さんも口をそろえて言うのだ。どこも悪くないように見えても身体の奥に「ケッカクキン」という悪者がひそんでいて、アイリーンが、ちゃんと直らないうちにお薬を止めてしまうのを待っている。だから、たとえかき破りができてしまうほど身体がかゆくても、そんな悪さをしているお薬は絶対飲まなければならないんだそうだ。
 「お薬を止めたら、もっとしんどくなって、もっと長いこと病院にいないといけなくなるのよ」
 そう言って、看護師のお姉さんは、アイリーンがしかめ面をして10個近い色取り取りのカプセルを飲み終わるまでそばについている。そうして、小さな手帳にサインする。誰もが、アイリーンがちゃんと薬を飲んだことを確認できるように。先生は、そうやって毎日お薬を飲んでいたら、3ヵ月ほどで退院できると言っていたのに、もう半年近くたってしまった。「フクサヨウ」とかいうもののせいで「カンキノウ」が落ちているからだと説明してもらったが、アイリーンには、難しいことはよく分からない。そんなことはどうでもいいから、早く家に帰りたいと思う。学校に行って友達に会いたかった。大嫌いな宿題も、今なら進んでやれそうな気がする。11歳になったばかりのアイリーンにとって、半年という時間は永遠にも等しかった。

 パパもママも毎日のように顔を見せてくれたが、いつも、顔の下半分をおおう大きなマスクを付けていて、何だか知らない人のように見えた。「ケッカク」という病気は簡単に人に伝染(うつ)るので、病院にいる間はマスクを外してはいけないのだそうだ。アイリーン自身も、病室を出る時は、必ずマスクをしなければならなかった。そんな人ばかりが入院している病棟だから、お見舞いの人もそう多くない。仲良しの友だちには入院してからいちども会っておらず、近くに住むお祖母ちゃんも2度ほど来てくれたきりだ。でも、本当はみなアイリーンに会いたがっているのだとママは言う。
「でも、伝染ったら悪いから、我慢してね、てお願いしているの」
 もちろん、アイリーンにもよく分かっていたが、やっぱり大好きなお祖母ちゃんや親友のエリンに会えないのは寂しかった。


 そんなアイリーンの唯一の楽しみは、マンガを読むことだった(ともかく、病室にいては、テレビを見ることと本を読むことくらいしかすることがないのは事実だ)。本を読むのも嫌いではないが、無人島にどちらか一方だけ持って行っていいと言われれば、迷わずマンガの方を選ぶ。以前は、アイリーンが図書館や友達から借りてきたマンガの本を読んでいるといい顔をしなかったママも、今では、彼女の望むままにマンガの本を買い与えてくれる(「たまにはこんな本も読んでみなさい」と普通の本しか持って来てくれない時もあるけれど)。
 ここ1年ほどのお気に入りは、日本のマンガで(もちろんセリフは英語になっている)、その中でもいち押しは「XXX」というシリーズものだ。最初の出会いは、Cartoon Channel の日本アニメの再放送だった。英語に吹き替えられたそのアニメに、アイリーンは「一発でやられて」(という言葉は看護師のお姉さんから教えてもらった)しまったのだ。エリンは「YYY」の方が面白いと言って譲らなかったので、2人の仲は、それが原因で一時険悪になったものだ。
 アイリーンは、アニメの主人公Aに、「乙女心をわしづかみ」(これも同じ看護師のお姉さんから教えてもらったのだけれど、古い言回しなのだそうだ)にされたのだった。一見きゃしゃに見える栗色の髪のその青年は、ひとたび戦いが始まると誰よりも強く誰よりも格好よかった。チームには紅一点のメンバーがいて、2人は互いに好意を持っているように見えたが、どこからどう見てもステディな仲には見えなかったから、アイリーンは、もう少し大人になったら自分が主人公の彼女に立候補しようと決意を固めた。アニメの登場人物が実際にこの世に存在しないことくらいは彼女もよくわきまえていたが、彼と同じくらい強くて同じくらい格好いい大人の男の人がどこかにいないとも限らないではないか。その日のために、今からちゃんと準備しておかなければ。ああ、早く、彼につり合うような大人の女性になりたい ―― 幸いに、というべきか、Aとデートする(あるいは彼とともに「事件」を解決する)未来の自分の姿を夢想する時間は、ふんだんにあった。
 マンガを読んで、紅一点の彼女がAの「本物の」彼女だと分かった時は、しばらく涙にくれたものだ。だが、最近では、それも仕方ないと思っている。何といっても、彼女は優しくて強くてその上飛び切りの美人だ。それにチームの一員でもある。Aがいつもそばにいる彼女を好きになるのは当然だと思うのだ。だから、今では、自分の恋は潔くあきらめ、陰ながら2人の恋を応援しているアイリーンである。

(中略)

 その日の夕方、ママが帰ってしまうと、アイリーンは病室に独りきりになった。
 本当は4人部屋で、お祖母ちゃんとおっつかっつの年齢のメアリおばさんと、もう少し若いディリアおばさんが同室なのだが、金曜日の今日は、2人とも自宅に帰ってしまっていた。退院が近づくと、週末は家に帰れるようになるのだが、アイリーンには、まだ外泊許可は下りていない。
 大きな声でうわさ話ばかりしているおばさんたちがいなくなったら、さぞかしほっとするだろうと思っていたのだが、急に部屋が静かになってしまって、寂しさばかりが先にたった。2人がそれぞれの家族とともにあわただしく出て行ってしまってから、まだ数時間しかたっていないのに、彼らのかしましさが無性に懐かしく感じられた。

 早い夕食が終わり検温もすむと、あとは消灯を待つばかり。おりあしく、今日は面白そうなテレビ番組もやっていない。本当は十分以上に心細いのだが、いつでも様子を見に来てあげるという看護師のお姉さんに
「大丈夫、独りで寝られるもん」
 と胸を張った手前、そう簡単にナースコールボタンを押すわけにはいかなかった。
 時計の針は8時を指している。いくらなんでも眠るにはまだ早すぎる時間だ。アイリーンは、ため息をついてベッド脇のロッカーの扉を開け、「XXX」を1冊引っ張り出した。今晩は、彼らに助けてもらおう。

**********

 固くて冷たいものをほおに押し付けられ、アイリーンは、びっくりして目を覚ました。すぐに、その「固くて冷たいもの」が、さっきまで読んでいた(ともかく、アイリーン自身に眠りに落ちた記憶はなかった)マンガ本の表紙であることに気づく。どうやら、寝返りを打った拍子に枕の上から頭がずり落ち、顔が本の上に着地してしまったようだ。
 いつの間にか、ベッドの上の読書灯は消え(これも全く記憶になかったから、当直の看護師のお姉さんが消してくれたに違いなかった)、あたりは闇に包まれている。テレビの上に置いたデジタル時計は2:31に変わるところだった。
 こんな時間にこんな風にしんと静まり返った中で目を覚ましているのは初めてだった。もちろん、真夜中に目を覚ましたことは何度もあったが、いつもなら、目を覚ますなりメアリおばさんのいびきが耳に飛び込んできたから、今みたいに泣きたいほど寂しく感じたことはない。うるさくてかなわなかったその音が、今は懐かしくてしょうがない。思わず、コールボタンに伸ばしかけた手を、アイリーンは急いで引っ込めた。だって、「独りで大丈夫」って言ったんだもん。怖くなんかないもん。そうだ、おトイレに行こう。トイレは、ナースステーションの斜め向かいにあるから、偶然みたいな顔をしてステーションの中をのぞくことができる。うまくすれば、お姉さんの誰かとちょっとお話することができるかもしれない。

 現金なもので、そう思い立つと、さっきまでの心細さは跡形もなく消えてしまった。
 アイリーンは、カーディガンを羽織ってベッドから下りると、スリッパに足を突っ込んだ。病室の入口の天井には淡い光を放つ常夜灯が取り付けられていたから、足元に不安はない。アイリーンはそろそろとドアを引き開けて廊下に出た。真夜中のこととて廊下の照明も8割方落としてあるが、10メートルほど先の1ヵ所だけ、眩い光がもれている場所がある。そこがナースステーションで、その斜め向かいがトイレだ。

 ナースステーションは無人だったが、夜間は看護師さんの数も少ないから、これは別に珍しいことではない。お手洗いをすませて、もう一度ステーションをのぞく。まだ、誰も戻って来ていないようだった。ナースコールが長引いているのかな。もう少し待ってみようか...首を傾げて思案する。左目の片すみに動くものをとらえたのはその時だった。何だろう ―― 振り向くと、白っぽい影が、一番端の部屋に消えて行くところだった。まるで、壁を突き抜けるみたいにすっと消えていったのだが、そこは、ランドリースペースで病室のようにドアがあるわけではなかったから、それ自体は不思議でも何でもない。だけど、とアイリーンは考えた。どうしてこんな時間に、看護師のお姉さんがそんな場所に入っていったのだろう?(ちらりと見ただけだが、それはお姉さんたちの制服のように見えた) ランドリールームは入院患者自身や家族が下着や寝間着を洗濯する場所だから、看護師のお姉さんたちに用事があるとは思えない。ともかく、昼間の時間帯でさえ、お姉さんたちがそこへ入っていくのを、アイリーンはほとんど見かけたことがなかった。

 ランドリールームは、常夜灯の明かりも届かない、廊下の一番端っこにあったから、様子を見に行こうかどうかちょっと迷ったが、最後に好奇心が勝った。それに、結局、看護師のお姉さんとしばらくお喋りできることになるかもしれない。

 できるだけスリッパの音を立てないように気をつけながら、アイリーンは、廊下を進んでいった。夜間は静かに歩くようにといつも言われていたせいもあるが、お姉さんを脅かしてやろうという気持ちもあった。ランドリールームの手前までくると、そうっと首だけ出して中をのぞく。

 誰も、いなかった。廊下から差し込むかすかな明かりのおかげで、それくらいはひと目で分かる。同時に、アイリーンは、3台並んだ洗濯機のうち、一番奥のそれが防水パンの外に出されていることも、見て取った。お姉さんが動かしだのだろうか? いやいや、そんなはずはない。いくらお姉さんの力が強くても、ひとりであの洗濯機を動かすことができるとは思えない。それなら、いったい誰が何のために? それより、一体全体、お姉さんはどこへ行ってしまったのだろう? 
恐る恐るランドリールームに足を踏み入れる。防水パンのそばまで行くと、洗濯機があった場所に、ぽっかりと黒い穴が開いているのが見えた。そんな場所に穴があるべきではないということくらいは、アイリーンにも分かる。いったい、いつ、誰が開けたんだろう?もしかして、お姉さんはこの中に落っこちてしまったんだろうか?

 すぐに助けを呼びに戻るべきだと頭では分かっていたが、アイリーンは、その黒い穴から目を離すことができなかった。あの穴の向こうには、いったい何があるのだろう? お話の本なんかだと、そういうものの向こうには、別の世界が広がっていることになっているけれど。
 アイリーンは、防水パンの横にひざをつき、できるだけ身体を伸ばして穴の中を覗き込もうとした。穴の奥は真っ暗で、中で広がっているのか、それとも入口と同じ幅の筒型の穴なのか、それさえも分からない。もちろん、穴の底など見えようはずもなかった。
 アイリーンが、ため息をついて身体を起こそうとした時、穴の奥で何かがぴかりと光るのが見えた ―― ような気がした。何だろう? もっとよく見ようと、さらに身を乗り出した瞬間、つるりとスリッパが滑った。あっと思った時には、もう身体が宙に浮いていた。真っ黒な穴が目の前に迫る。アイリーンは、思わずぎゅっと目をつぶった。


(時間の関係により本文割愛)


エピローグ

 結局、アイリーンは、その「事件」から1ヵ月後に退院することができた。
 退院後は、しばらく登校できなかったし、長いことお薬を飲み続けなければならなかったが、それでも「ケッカクキン」は退治されたようで、その後、彼女が再び病院に戻ることはなかった。

 エリンに「事件」のことを話そうかどうかずい分迷ったが、結局、話さなかった。自分でも半信半疑なのだから、話しても信じてもらえないだろうという気持ちもあったが、何より、自分ひとりの思い出として大事にとっておきたかったからだ。
 いつ次の「事件」が起こっても大丈夫なように、勉強にもスポーツにも精を出したが、その後、「彼ら」に再会することはなかった。

 1年、2年、5年...と時間が経つにつれ、「事件」のことを思い出すことも間遠になった。たまに思い出しても、「楽しい夢を見た」と懐かしいような切ないような気持ちになるくらいだった。それでも、赤いカチューシャは、宝箱の底に、ずっと大事にしまっておいた。結局、そのカチューシャが本当はどこから来たのかは、分からず仕舞いだった。多分、従姉のお姉ちゃんのところからだろう。実際、色とりどりの髪飾りをいくつも持っていたから。

 大学でともに学んだクラスメートと数年後に再会し、短い交際期間を経て、翌年結婚した。背が高くハンサムと言えないこともなかったが、「彼」とは似ても似つかぬ容貌の男性だった。

 結婚に際して本やマンガはずい分処分したが、それでも、「XXX」を初めとするいくつかのシリーズものだけはどうしても処分できず、かといって実家に置いてくることもできなかったので、引越し荷物に紛れ込ませて新居に持ち込んだ。夫となった男性は、それらを2人の本棚の一等席に並べるよう勧めてくれた。結局のところ、そんな男性だったから好きになったのだ。

 2年後に、娘が生まれた。
 アイリーンは、娘が物心つく頃にはマンガを持たせ、母親譲りのマンガ好きに育て上げた。夫は、母娘が共にアニメに興じマンガを回し読みするのを見て苦笑いしたが、ともかく娘は、マンガ以外のものにも健康な好奇心を示す賢い娘に育っていたから、片目を瞑って、この母娘共通の趣味を認めてくれた。

 その娘も当時のアイリーンの年頃になった、ある日。
 学校が大好きで、いつもは目覚まし時計の不要な娘が、その日は珍しく、自分で起き出してこなかった。珍しいとはいっても、これまで何度かそういうことがあったので、さして気にも留めず、アイリーンは、娘を起こしに2階に上がった。
 娘は、すでに目を覚まして、ベッドの上に起き上がっていた。

 「どうしたの、早くしないとスクールバスに乗り遅れるわよ。それとも、どこか具合でも悪い?」
 アイリーンが、ベッドの脇に屈みこむと、娘は不思議な表情で母親を見た。
 「夢を見たの」
 「どんな?」
 「XXXの夢。一緒に悪いヤツをやっつけたの。夢じゃないんじゃないかと思うくらいリアルだったの」
 アイリーンは、急に声が出なくなってしまい、息を詰めたまま、娘の次の言葉を待った。
 「それがね、おかしいの」
 と娘は続けた。
「別れる時にね、Aが、お母さんによろしくねって言ったのよ」

 では、彼はちゃんと覚えていてくれたのだ。

 アイリーンは、娘の髪に顔を埋め、涙と感動を隠し
 「それはね」
 と震える声で言った。
 「お母さんも、昔、彼らに会ったことがあるからよ」


「ドリームチーム(The Dream Team)」(初出2007年頃)
2018.02.24 14:29 | 好きなもの・こと | トラックバック(-) | コメント(0) |

五輪(主にフィギュアスケート)観戦で満身創痍のSayoです。
しばらく真面目な記事を書いてきましたので、今日は息抜きです。
中身がないので、お暇な方以外はスルーでお願いしいます。

夜中にNHKで「アシガール」というドラマの再放送をやっていまして、まんまと嵌まってしまいました。
その日の仕事を終え片付けを終え入浴を終え、ゆっくりする時間帯。
正確には、萌えポイントを突いたストーリーにまんまと嵌まったという感じ。

ワタクシは身近に年頃の女の子がいないので、イマドキの若いお嬢さんが何を好み何にドキドキするのかがイマイチ分からないのですよね。
ですが、このドラマに夢中になっておられる若い方が多いらしいことが分かり、「時代は変わっても『萌え』ポイントは一緒なのね」としみじみ嬉しくなってしまったのでした。
ワタクシたちが若い頃は、「王子様的人気者がなぜか地味な女の子を好きになる」というのが王道ラブストーリーだったのですが、これもそれに近い感じ。主人公は、容姿は地味ですが、元気一杯猪突猛進型、ではありますが。

「足が速いだけが取り柄の平成女子高生が弟の作ったタイムマシンで戦国時代にタイムスリップし、そこでひと目惚れした若君を守るために男の振りをして足軽として働き、ジツは女性であることを知った若君もそのけなげな姿にくらっとする」という、タイムスリップものです。原作は同名の漫画だとか。
この頃のタイムスリップものは現在と過去(又は未来)を自由に行き来できるものが多いんでしょうか、このドラマでも、主人公は現在と過去を行き来し(回数に制限があるんですが)、矢傷を負った若君を助けるため、自分の代わりに若君を現在に送り込んだりもします(お母さんがお医者さん)。

ワタクシは、個人的にはどちらかといえば、「それはありえない」という大嘘(ここではタイムスリップ)を1つついたら、その大嘘以外は細部まで緻密に作り込まれた話が好きなのですが、これは「いやいや、それはないやろ」の連続で。まあ、漫画なので、それくらいはっちゃけていてもいいのかもしれません。そして、実際、いつの間にか引き込まれている自分がいたのでした。

原作・脚本・配役などすべてがうまくかみ合った結果で、おそらく、原作の決め台詞も随所に盛り込まれていたのでしょうが、その用い方も見事に「萌え」ポイントを突いていたと思います。

主人公の唯(唯之助)は黒島結菜さん。
演技は「・・・」な部分もありましたが、足軽ですから走るシーンが多く、野山を走る場面は圧巻でした。過酷な現場だったと想像します。何より「一生懸命」さがにじみ出る演技でした。
若君忠清さまは健太郎さん。
名前も顔も今回が初めてでしたが、若君らしいおっとりした、でも上品で威厳もある喋り方や立ち居振舞いがとてもさまになっていました。お上手ですね。
原作を読まれた方は「ビミョーに違う」感があったかもしれないのですが、ワタクシは先入観なく見たので、お二人ともはまり役のように見えました。
脇の方たちも地味に上手い。ともさかりえさんが、上手に年を重ねておられるなと思いました。

土曜夕方が本放送だったようですが、人気が出たので、早々とDVD化と続編製作が決定したそうです。

途中から見たので、最初の1、2回は見逃しましたし、それ以降も見られない回があったので、その分はYou Tubeさんにお世話になりました。
いやはや、いい世の中になったものです。
というわけで、最近修羅場っていたのは、五輪と「アシガール」が原因です。

You Tubeというのは便利なもので、画面の下に経過時間が表示されます。
40分弱の放映時間のどこにどんな形で「萌え」ポイントが挟み込まれるのかも確認できたりなんかするわけで。

その結果、正しい「萌え」(<そんなものあるのか<自分)には、

1 萌えポイントは多すぎてはいけない。胸焼けする(ストーリーにほどよく盛り込まれないと萌えない。その点、本作は原作と脚本がいい感じにポイントを押さえていたと思います)。
2 「男性が問答無用に格好いい」が納得できる設定が必要(現代ものではこれがなかなか難しいのですが、異世界や過去を舞台に設定することで、このハードルが下げられたような気がします)。
3 別に2人が一緒のシーンがなくても萌えポイントは作れる(第3者に気持ちを明かすとか、心配するあまり「らしく」ない言動をしたり、とか)。
4 セリフ(時代劇調の言葉)が生きている(普段聞き慣れない言葉、というだけで「胸キュン(という言葉でよかったんだっけ?)度が上がります)。
5 ときには寸止め(邪魔が入る)や「行間読んでね」(わざと描かない)をする。

あたりが必要なのではないかとの結論に達しました(?)

今後の参考にさせて頂こうと思います。
還暦を過ぎたら(まだしばらく先ですが)、楽しくこういう話を書くのもいいかもしれない。
そのためにも、今しばらくガツガツ稼ぎ(稼いでないけど)勉強する日々を送ろうと、現実世界に戻ってきたのでした。

いろいろ書きましたが、「アシガール」、面白かったです。
続編も楽しみにしています(またYou Tubeさんのお世話になるような気がしますが)。
2018.02.22 00:21 | 好きなもの・こと | トラックバック(-) | コメント(0) |
このお話を書いた頃、私は、スティーブン・キングの「From a Buick 8」を聴いていました。ホラー風味の再生と成長の物語です。
読まれた方はご存じだと思いますが、この小説は、数名の登場人物が、自分の視点から目撃談を語る形になっています。Audio Bookでは、男女数名の朗読者が担当章を朗読する、という体裁を取っていて、ラジオドラマを聴いているような不思議な味わいがありました。
話者の視点が過去と現在を行ったり来たりするため、各章のタイトルが「NOW: XXXX(話者名)」「THEN: YYYY(別の話者名)」のようになっていて、次は同じやり方でお話を書いてみたいなあと思っていました。所詮二次小説なんで。項目タイトル記載方法のパクリくらいは、ま、えっかなと。

再掲するにあたり、原形を留めないくらい書き直しました(さわりの部分だけですけど)。
言葉遣いももちろんですが、どう考えても時系列的に「それはないだろ」みたいなことを書いていたりして。おそらく、「その方がなんかいい感じ」という理由で、深く考えずに言葉を繋いでいたのでしょう。
何となく、先日のシンポジウムの「機械的な翻訳と自分に都合がよく気持ちのよい勝手訳の中間に『よい翻訳』があり」の部分を思い出してしまいました。「自分に都合がよく気持ちのよい」の部分。でも、「気持ちがよい」だけだと「ホラ、ホラ、いいでしょ、この表現」という自己陶酔というか自己満足に陥ってしまうのだなあと、10年の歳月を経てしみじみと思うのでした。とはいえ、「きちんと正しく」だけだと無味乾燥な文章になってしまったりということもあり、「伝えたい」気持ちだけが先行しないように注意しながら文章を書くのは、翻訳に限らず、どんな文章でも本当に難しいと改めて思いました。

このお話は、10年以上前に、2040年くらいの近未来を想定して書いたものです。
当時はまだスマホは登場しておらず、ビデオ通話も(すでにある程度市民権を得ていたのかもしれませんが少なくとも私の周りでは)一般的ではなく、私は、移動手段の高速化が進むだろう、とありきたりの予想をしていますが、10年時点では大きく外していますね(2030年頃にはリニアモーターカーが開通している予定のようですが...)。結局、「今」の延長でしかものを考えられない人間ということなのだった。トホホ。2040年、どんな世界がくるのだろう。


***


NOW アメリカのどこか  デイビッド

 もう何時間歩いたろう。
 出発したときはまだ薄暗かったのが、日はもう中天にかかろうとしている。
 行く手を阻む崖に取りついてから、まる2日が経とうとしていた。


 以前偵察のためにこの地を訪れたとき、たまたま知り合った地元のガイドに、その山に登ろうと考えていることを冗談めかして話したところ、やんわりと、しかしはっきりと反対された。「でかいけものがよく出ますんでね。地元の人間は誰も近づきませんよ。自殺行為ですからね。旅行で来られた方が腕試しするような場所じゃありません」と、執ように少し東の別の山を勧められた。だが、私は彼が反対した本当の理由を知っていた。その山は人を喰うのだ。生命の欠片すら見当たらないその赤い岩山の向こうに何があるのか知る者はいない、はずだ。
 桃源郷があるという者もいたし、悪魔が住むという者もいた。いにしえの黄金を隠した洞穴があり、今は魂だけになった持ち主が番をしていて、近づこうとする者を取って喰うのだと、まことしやかに囁く者さえいた。
 そういう噂に惹かれ、私のように山越えに挑んだ者は十指を下らなかったが、その半分は行き倒れたのかそれとも魔物に喰われたのか二度と戻ってこなかった。残る半分は、何日も、時には何週間も経ってから岩山の麓で発見されたが、みな等しく入山してからの記憶を失っていた。
 ハイテク機材を装備した自家用ヘリを飛ばし、空から探索を試みたトレジャー・ハンターもいたが、戻ってきたヘリの乗組員たちも、同様に出発してからの記憶を一切失っていたという。
 不思議な出来事はしばらく前に止んでいたが、伝説や噂話の類いは残り、最近では岩山に近づこうとする者すらいないらしい。
 そうしたことを、私はすべて調べ上げていた。わたしの本業はジャーナリストだ。調べものはお手のものである。そして、私には、どうしてもすべての情報を得ておかなければならない理由があった。あらゆる準備を整えてその山に臨むために。


 真下に立って見上げると、赤い岩山自体はそう高いものではなかった。魔物伝説を身にまとい、来る者を拒むがごとく屹立しているので、「そびえ立つ」という表現が使われるようになったのであろう。いずれにせよ、父の話から、最初に岩登りをしなければならないことを予想してロック・クライミングの訓練を積んできた私には、その頂上に立つのはさして困難なことではなかった。

 頂上から見ると、絶壁の反対側はなだらかな下り斜面になっていて、中ほどから再びゆるやかな上りになり、そのまま尾根に続いている。そのあたりから、赤茶けた岩肌は緑に変わる。うねうねと続く尾根には霞がかかり、あまり先まで見通すことはできなかった。

 その日の晩は下り斜面の広い岩棚に簡易テントを張ってビバークし、翌日は尾根伝いに歩けるところまで歩いて、手頃な木の枝の上で一夜を明かした。その頃には、たけ高い草に行く手を阻まれ、時に藪こぎを余儀なくされるようになっていた。だが、これは悪い徴候ではない。父から「藪こぎに難儀した」という話を聞いていたからだ。

 3日目の朝、日が昇る前に再び出発して数時間、視界を覆っていた草木が少しまばらになり始めた。間違いない、この方向だ。もうすぐ会える。遥か昔、父が出会ったというその人たちに。


ONE YEAR AGO 東海岸  デイビッド

 父とはもう長いこと疎遠になっていた。大学2年の年に、ロボット工学を専攻させようとして譲らない父に反発し、ジャーナリズムをやるのだと宣言して勘当同然に家を出て以来だから、もう10年近く顔も見ていないことになる。

 その間に、働きながら、何とかそこそこ名の知れたジャーナリズム学科を卒業し、そこそこ大きな町の地方新聞社に職を得た。たいがいは記者として飛び回っていたが、最近では、主筆が休暇を取った折りなど、時折り論説文を任せられることもある。だが、もちろん、そんなちんけな新聞社で一生を終わるつもりはなかった。ジャーナリストの卵の例に漏れず、私も、いつの日か自分の名前で本を出版するという夢を暖めていたのである。


 勘当以来、家に足を踏み入れたことはなかったが、母とは時折り連絡を取り合っていた。
 父が、末期の癌であることも母からのメールで知った。ステージIVの癌が死病と呼ばれなくなって久しいが、それでも発見が遅れれば手の施しようがない場合もないではない。父がそんなケースだった。
 母は、メールで、父が死ぬ前に何とか和解してほしいと切々と訴えてきたが、家に帰るつもりは毛頭なかった。父は大変厳格だった上に、私を自分の思いどおりに育て上げようとしていることが感じられたから、勘当以前も親子の仲は悪く、「勝手に死ねばいい」くらいにしか思わなかった。---白状すれば、胸の奥の方にちくりと痛みを感じたのだが、私はそれを二日酔いのせいにして何とか意識の底に押し込めた。

 それから2週間ほどして、母が今度は、父が私に会いたがっていると言ってよこした。死ぬ前にどうしても話しておきたいことがあると言っている、というのだ。来てくれるなら、昔の自分の言動を土下座して詫びてもいいとまで言ったそうだ。
 あの父が土下座だと? たとえ太陽が西から上ってもそんな日は来るまいと思っていた。いったい何事だ。ジャーナリストの血が騒ぐ。
 私はその足でエクスプレス・フライトのチケットを買いに走った。東海岸から西海岸に1時間ちょっとで飛べるという謳い文句の、目の玉が飛び出るような値段のフライトだ。カードで支払いを済ませながら、自分から頭を下げるわけじゃない、父の方から折れてきたのだ。決して少しでも早く父に会いたくて高価なチケットを購入するわけじゃないと自分自身に言い聞かせる。だが、それが言い訳に過ぎないことは、自分が一番よく承知していた。

(後略)

「かくれ里伝説」(初稿2006年頃)
2017.06.20 13:28 | 好きなもの・こと | トラックバック(-) | コメント(0) |
タイトルによる期待度と内容の乖離8:1くらいの覚悟(?)で読み進めていって頂ければと思います。す、すいません。

***

「彼女」とは中田久美久光製薬スプリングス総監督(バレーボール)のこと。
今シーズンのVリーグ終了後、全日本女子監督に就任する予定だ。

Number 1月14日特別増刊号に、彼女へのインタビューをまとめた記事が掲載されていた。執筆は「日の丸女子バレー」の吉井妙子氏。
だからだろうか、記事はよくまとまっている上、中田総監督の言葉からも「かなり本音で話しました」的な感じを受ける。
(私は、バレーボールは観戦するだけの素人なので、あくまでも素人の感想だけれど)

中田総監督は「厳しい監督」というイメージがあり、全日本女子監督内定のうわさを聞いたときは、「選手がついていけるかな」とちょっと心配してしまった。選手には失礼な言葉だということは承知しているが、それだけ総監督には「厳しいひと」というイメージがあったということだ。

でも、昔の記事を読み返していると、次のような一節が目についた。

(選手生活の晩年、怪我に苦しみ、約1年間手術とリハビリの生活を送ったことに触れたあと)「復帰してよくいわれたものだ。『上げるトスがやさしくなったね』と。確かに人にやさしくなった。人のミスを許せるようになった。人間、だれでも辛いときがある。それを知ったことはプレイヤーとしても決してマイナスではなかった」(佐藤正治、Number349号、1994年)

私は、一度だけ彼女のプレーをなまで見たことがある。W杯だったか日本リーグ(当時)だったか。まだ17、8歳の頃だったと思う。当時の日本人女子セッターとしては長身の中田選手があっという間にボールの下に入り、速いトスを上げていたのを覚えている。当時すでに「天才セッター」と呼ばれていたと思う。だが、それが「天賦の才」だけでないことは、「日の丸女子バレー」を読めばよく分かる。確かに非凡な才能はあったに違いない。それでも、中田久美は努力の人だったと思う。そして晩年「やさしい」と表現されるトスを上げるようになったのだとしたら、ただやみくもに厳しいだけの監督ではないはずだ。

今号のNumberから拾った彼女の言葉をいくつか載せておく。

「国際大会ごとに少数の選手の入れ替えはあるでしょうが、合宿などに大勢集めて試すというようなことはしません。選抜から漏れた選手の気持ちを考えたら酷なことですし、しょっちゅう選手を入れ替えていたらチームは固まりませんから」

(注目する若手の名前を何名か挙げたあと「ただ、全日本は育成の場ではありません。もちろん、東京五輪の先を考えたら今から育て、東京五輪で経験を積ませるという考えも必要でしょうが、私にとって東京五輪は勝負の場。これまでのバレー人生すべてを賭けた闘いに出ますので、選手の育成に時間をかけていられません。育ててもセッターと若手数人という感じですかね」

(久光では選手に常に「なぜ」と問いかけ、自分で正解が見つけられるように導いた)「時間のかかる行為ですが、コートで判断するのは選手たち。勝利は、一瞬一瞬の正しい判断の積み重ねの結果ですから、地頭(Sayo注:じあたま)がしっかりしていなければ勝負に勝てません」

「私は時々、周りに『びっくりした』と言われるような采配をすることがありますが、私にとってはすべて想定内。常に選手の練習態度や取り組む姿勢をしっかり見ていますから、ここでこういう手を打てばこうなる、というのは予想できるんです」

「先ほどから選手に130%の力を出させると言っていますが、決してはったりで語っているのではありません。どんな方法かはまだ言えませんが、今回の全日本には科学の力をふんだんに持ち込みます。データバレーではもう勝てません。データはあくまで結果に過ぎない。結果を分析して作戦を立てるのではなく、選手らが頭をフル回転させて試合の流れを先読みし、どんな場面でも対応できる予測能力を磨く練習を重ねていくつもりです」

(以上、Number 1月14日特別増刊号「東京へ。」から、文:吉井妙子)

彼女の思い描くやり方が必ず奏効するとは言えないかもしれない。発言の一部に異を唱える人もたぶんいるだろう(私は素人なので、納得できる点もあり何とも言えない点もあるというのが正直なところだ)。ただ、ひとつ言えるのは、中田総監督はすでに自分の中に確固たるイメージを持っているということだ。
インタビュー全体を通してもうひとつ感じたことは、中田総監督は、周りも選手も本当によく見ているということ。「よいときも悪いときも努力も取り組む姿勢もすべて見てくれている」-そう思えるからこそ、久光の選手たちは厳しい監督についっていったのではないか。
また、彼女は「データバレーではもう勝てない」と言っているが、それは決して「データバレーは間違っていた」ということではないと思う。長身でパワーもある外国勢が、これまでは日本選手の方に分があった守備力や組織力を身につけつつある今、これまでと同じやり方ではもう勝てないということだと理解した。

「どんな方法かはまだ言えませんが」と聞くと、もうそれだけでワクワクするではないか。
中田全日本の今後を密かに楽しみにしているSayoである。
2017.01.15 17:46 | 好きなもの・こと | トラックバック(-) | コメント(0) |
とりあえず...生きてますのご挨拶的に...
年内にもう一度今年を振り返ってみたいと思っていますが...
できなかった場合は「とうけいかいせきけいかくしょ」と差し違えたと思っていただければ。


アクションというとまず頭に浮かぶのは、ひかわきょうこさんという漫画家さんです。
もちろん、アクション満載の漫画や小説を書かれる方は他に数多おられるのですが、なぜかひかわさんの「彼方から」がぱっと頭に浮かぶのです。

もうデビューされて40年近くになるでしょうか、「地味で目立たない、でも一生懸命なヒロインが、過去/陰のある、でも根は真っ直ぐなツンデレの人気者と両想いになる」という、当時の少女漫画の王道をいく漫画を描かれる方でした。「王道に軸足を置きつつのアクション指向(?)」路線が明確化したのは、たしか「荒野の天使ども」の頃。そして、それが花開いたのが「彼方から」の異世界のヒーロー、イザークであったと個人的には思っています。自制心を失うと角・牙・鱗が生えるという(ほんで四つん這いになってた記憶が...)、「王道少女漫画のヒーロー的にどうだろね」な部分もあましたが、それでもイザークは格好よく、アクションシーンでは「その動き、関節的にありえねーだろ」と突っ込みを入れつつも、惚れ惚れしてしまったものです。ワタクシがあと35年ばかり若ければ、イザークに壁ドンされたかったですね。まあ、相手は二次元ですが。

「彼方から」のような映像が頭に浮かぶようなアクションを文字で描写したい、というのがワタクシの密かな野望のひとつです。
下のお話では挑戦して玉砕した、て感じでした。プロローグだけなのでアクションはありませんが。
いつかまた、自分の関節で「あーでもない、こーでもない」と色々試行錯誤しながら挑戦してみたいと思っています。

*****

プロローグ

 ポリスが現場の路地に到着したとき、男はすでにこと切れていた。
 仰向けに倒れた身体の左肩から右腹部にかけて、鋭利な刃物ですっぱり切られたような長い傷があり、そこから流れ出た血が背中の下に血溜りを作っている。臓腑に届くほど深い傷とは思えなかったが、一見したところ他に外傷は見当たらなかったから、失血によるショックが直接の死因と思われた。

 死体を検め終わった警官は、立ち上がってあたりを見回した。
 飲食店の裏口と覚しきいくつかの戸口に灯された電球の明りのおかげで、ぼんやりとだが向う端まで見通すことができた。ことさら物騒な場所とも思えない。路地とはいっても、ごく小型の車なら何とか通り抜けられないことはない程度の幅もある。もっとも、路地を入ってすぐの場所に細長のゴミ集積場があったから、実際に車で通り抜けようとする輩はいないに違いないが。

 男はその集積場の脇に、頭を路地の出口に向ける格好で倒れていた。
 第一発見者は、角のビルの地下にある安酒場の店員だった。店を閉めた後、帰宅する足でゴミを捨てに寄って、男が倒れているのに気づいたという。さては酔っ払いか、蹴って起こしてやるかと2、3歩近づいたところで血まみれの衣服と血溜りに気づき、慌てて911通報したということだった。

 それにしても、いったいどんな凶器を使えばこんな裂傷ができるのだろうと、改めて死体を見下ろしながら、警官は考えた。
 仕事柄、そしてスラム化が進みつつある旧ダウンタウン地区を抱える土地柄、20年余の勤務の中で、これまで嫌というほど殺傷事件の被害者を見てきたが、外傷が正面の裂傷だけ ―― しかもどうやらそれが致命傷らしい ―― という被害者にお目にかかるのは、これが初めてだった。
 ナイフを使えば、刺傷が残る。これは、もっと刀身の長い凶器を斜めに振り下ろしたときにできる傷だ。
 ふいに日本刀という言葉が脳裏に浮かんだ。前夜テレビでニホンの古いサムライ映画を見たせいかもしれない。確かにあれを使えばこのような傷を負わせることは可能だろう。問題は、そんな凶器は簡単に手に入らないということだ。

 小石の転がる音が彼を現実に引き戻した。反射的にホルスターに手が伸びる。だが、小石を飛ばした靴の持ち主の特徴的な足音には聞き覚えがある。先ほど酒場に待たせている通報者のもとに話を聞きに行かせたルーキーのものだ。警官は苦笑しながら緊張を解いた。振り向くと、果たしてそこにはひょろりと背の高いパートナーの若者が立っていた。

「何か分かったか」
 ポーカーフェイスをつくって問う。若者が要領よく事情聴取の内容を総括した。
 店員の話では、被害者は、この辺りをねぐらとするホームレスのひとりではないかということだった。近寄った際一瞬目に留まったこめかみの傷跡に見覚えがあるような気がするというのだ。確かに、死体の左のこめかみには引きつれたような長い傷跡がある。

 ホームレスか...と先輩警官は、内心嘆息した。道理で粗末というよりぼろに近い身なりをしているはずだ。どうせ身元を証明するものなど所持していないに違いないから、いつものように、適当に報告書をでっち上げてお蔵入りにするしかあるまい。謎の凶器に食指が動いたのも事実だったが、ホームレスの殺人事件如きにいちいち深入りしていては、身体がいくつあっても足りないのが現実だ。

「仏さんを運ぶ手配はしたんだろうな」
 彼がルーキーの若者にそう声をかけたとき、
「俺あ、見たぜ」
 路地の入り口で甲高い声がした。
 2人の警官が弾かれたように振り向くと、そこに、小柄で年齢不詳の男が立っていた。その身なりから、被害者のホームレス仲間ではないかと察せられた。

「D(というのが被害者の通称らしかった)を殺った奴をよ」
 と男は続けた。
「若い男だ。Dはそいつと何か言い争ってた ―― と思ったら、瞬きした間に男の姿が消えちまったんだ。そして、Dが血を吹いてぶっ倒れた。だから、奴がやったに違いねえ。それしか考えられねえ」

 ルーキーが先輩の視線を捉え、自分の頭の横で小さく輪を描いた。コイツ、頭がイカれてるんじゃないですか、と言っているのだ。自分も同じことを考えていた先輩警官は、若者に苦笑を返し、
「消えたってのは、どういう意味だ?」
「何でも聞いてくれ」という台詞を表情筋だけで見事に表現している男の期待に応えた。
「だから、そのまんまだって。透明人間みてえに消えちまったのよ。嘘じゃねえ」
 警官は自分の質問を呪った。まったく、つくならもっとマシな嘘をつけよ。
「で、その『透明人間』は、何か手に持っていたのか?」
 いんや、と男は即座に首を振った。
「手ぶらだった。顔は見えなかったが、そこんとこは間違いねえ」

 ふと、自分たちの注意を引くのが目的なら、もう少しましな嘘をつくだろうという考えが警官の頭を掠めた。透明人間の部分を除けば、一応話に筋は通っている。

「で、何ですぐ警察に知らせなかった?」
「人殺しの透明人間がうろうろしているかもしんねえのに、こんなとこでぐずぐずしている馬鹿はいねえ。あんたらの姿が見えたんで戻ってきたのさ。ああいう物騒なヤツはちゃんと捕まえてもらわないとな」

 やはり眉唾だな、と警官は思い直した。手掛かりと引き換えに、食事か宿か現なまか、とにかく何らかの報酬を要求する手合いに違いない。

 一陣の風が路地を吹き抜け、警官は思わずぶるっと身を震わせた。年中温暖な西海岸とはいえ、春の浅いこの季節の夜の冷え込みはまだ厳しい。こういう晩は、早く仕事を片付けて一杯やるに限る。

「それじゃ、その『透明人間』とやらの話を詳しく聞かせてもらおうか」
 大袈裟な動作で手帳を広げ、鉛筆の芯を舐めた。

「かまいたちは嗤う(Invisible Jack, the Ripper in the Modern Age)」(初稿2008年頃)
2016.12.28 14:36 | 好きなもの・こと | トラックバック(-) | コメント(0) |