FC2ブログ

屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

ということで、恒例の読書感想文であります。

佐藤多佳子さんが、大阪世界陸上の4×100 mリレー日本代表(塚原、末續、高平、朝原+控えの小島)5人を取材して書かれたドキュメントです。前半は世界陸上の予選と決勝の描写、後半はメンバー1人1人に焦点を当てて描く構成で、取材期間が2008年春までだったので、北京五輪の快挙は描かれていません。ちょっと物足りない感も残りますが、「北京五輪前に発刊を」という編集側の意向があったのではないかと思われます。文庫版には、五輪後の朝原選手との対談も収められています。

この本の存在を知ったのは2年ほど前です。もう少し早く読みたかったのですが、図書館借出しではなく、手元に置いておきたいということで、「Book Off待ち」をしていたら、タイミングの問題でこんなに遅くなってしまいました。

大阪世界陸上は、地元開催でしたし、ボランティアに応募しようかどうか迷ったこともあり(両親のこともあり結局断念したんですけど)、かなりの種目をTVで観戦していたはずなのですが、リレーについては実は記憶がありません。どうやら北京五輪決勝で記憶の上書き操作がなされてしまったらしく、朝原選手がバトンを放り投げる例のシーンしか思い出すことができないSayoなのでした。本書に「(個人種目で脱水症状になり)体調の思わしくなかった末續選手が、予選を走った後レーン上で座り込んだ」(←Sayoがテキトーに要約)という記述があるのを読んで、やっと、「そう言えばそんな記憶が」と思い出したくらいです。でも、アジア新記録が続けざまに2回も更新されているんですよね。

さて、私は、本書を、興味深く面白く楽しく読んだのですが、たとえば、「ナンバー」の記事のようなドキュメントを期待されていた方は、「もっと競技に踏み込んだドキュメントを期待していたのに」的な物足りなさが残るかもしれないと思いました。

佐藤多佳子さんは、ご存知のように「一瞬の風になれ」という高校陸上部を舞台にしたスポーツ小説を書かれており(未読)、その取材の過程で、陸上競技そのものや練習方法、陸上選手の考え方などにかなり詳しくなられたには違いないのですが、競技をなさっていた訳でもずっと競技を追い続けて来られた訳でもなく、その意味では「部外者」と呼んでもよい立ち位置におられると思います(もちろん様々な知識はハンパないですけど)。ご自身を「ミーハー」と呼んでいらっしゃいますしね。

なので、スポーツライターさんが「そのスポーツにおける個人を(おおむね)淡々と事実の積み重ねで描く」とすると(←ざくっとした括りということで)、佐藤さんは、「スポーツも個人も描く」という描き方をされます(「夏から夏へ」については、ということですが)。個々の選手の考え方に言及する部分(「**選手はこんな風に考える」)、そうした考え方などを、佐藤さんが「(私は)~なのではないかと思う」と分析する描写も多いです。作家さんだけあって、「こうではないか」の人間観察は鋭いなと思います。

ただ、スポーツ雑誌のコラムなどでは、「私はこう思う」的な文章にはあまりお目に掛からないような気がします。そんな「外から観察する人の視点」で描かれるドキュメントを面白いと思うかどうかは、これはもう、好みの問題かと。個人的には、どちらも好きですけど。今回は、素人ライター佐藤さんの視点に同化できたということで、楽しく読ませて頂きました。

前半の予選、決勝の描写と、後半の個人個人を追ったドキュメントは、微妙に文体が異なるような気がします。前半は、一文が短く、体言止めが多用されていて、根拠はないのですが、何となく、「一瞬の風になれ」はこちらのタイプかなと。体言止めについては、昔、「流れを止めるものだから、多用せず、ここぞという時に使う」みたいなことを習いましたが、効果的に使うと、緩急出るなあなどと感心しながら読んだのでした。あ、作家さんだから当たり前ですね。


「『夏から夏へ』から翻訳へ」に続く(たぶんそのうち・・・)
関連記事
2013.06.05 16:00 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(4) |