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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

というわけで、例によって読書感想文なので、
お好みによりスルーして頂ければと思います。
決して翻訳トライアルの話ではありません、念のため。

以前「夏から夏へ」の読書感想文を書いた時、
スポーツ小説としてふと思い浮かべたのがこの本でした。

銀盤のトレース」も立派なスポーツ小説と思いますが、
私の中では、あれは「フィギュアスケート小説」なので。
個人的には「スポーツ小説」と並び立つ堂々のカテゴリです。

というわけで、「トライアル」なのですが。
これをスポーツ小説と呼べるかどうかは正直微妙です。

題材は、競輪、競艇、オートレース、競馬。
これらのギャンブル・レースを舞台に、スポーツそのものというより、それらの世界で生きる人々を描いた短編集4作です。主人公は競技者なのですが、人間関係や家族関係の描写に力点が置かれている感じです。真保裕一さんは「ホワイトアウト」しか読んだことがありませんが、勝手なイメージとしては「男を描く」。本作もそんな感じです(注:競艇を扱った作品の主人公は女性です<競艇レースに男女の別はないのだ!)。

練習場、各レース会場、厩舎など、普段垣間見ることのできない場所の描写も興味深い(興味があればってことですが)。

競技者が主人公ですので、もちろんレースのシーンもあります。物語は3人称ですが、一人の視点で語られるため、主語が省略された短い文章が続くことも多く、レースの描写など、その手法が生きていて、緊迫感が伝わってきます(と勝手に思っています)。たとえば、競馬を扱った「流れ星の夢」ではこんな感じ(主人公の騎手視点です)。

***

三コーナーに入ったところで、後続馬が仕掛けてきた。
馬場を揺するような重量音が迫り、後ろから圧力となって体を押した。先頭を逃げる騎手が、内ラチ沿いを離れずに回りながら、早くも鞭を用意するのが見えた。
ここだ。そう思った瞬間、セキノウイングはグンと体を沈ませ、もう追い込み体勢に入っていた。
レース運びを馬自身が覚えていた。あとは馬の気迫に負けじと、手綱をしごいて追うだけだった。四コーナーの出口でわずかに外へ出して、鞭をくれた。
最後の直線。鞭は二発。それで十分だった。
ゴールが近づくごとに、体が沈んでいくような走りだった。五十メートル手前で、逃げる先頭馬を捕らえた。そう確信した時にはもう、あっけなく引き離していた。
(「流れ星の夢」より)

***

我が家では旦那さまが手慰み(??)に競馬をなさり、私も結構TVで競馬中継を見るので(滞米時は近くに競馬場があったので、競馬場にも脚を運んでいたのだ~<家族連れも多く、休日の割りと健全な娯楽という感じでした)上の描写だけで場面が目に浮かぶようです。「セキノウイング」というお馬ちゃんの名前も、芸がないっちゃないですが、逆にいかにも栗東や美浦あたりを実際に走っていそうな感じですね。

文章の好みも題材の好みもあるかと思いますので(万人向きの小説とは言い難いかと)、お気が向かれましたら、ということで。


そして、「屋根裏通信」は、ますます翻訳ブログから遠ざかる道を歩んでいくような気がしてならないSayoなのだった(でも「勝手に読書感想文」はなかなか気に入っているのだった)。
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2013.07.02 00:28 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(10) |