屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。


出版翻訳者/ライターのJ川さんと実務翻訳者のI口(ふ)さんによる、対談形式のセッション。
今回、個人的に一番楽しみにしていたものです。

もちろん、セッション1も2もお目当てのセッションで(根性で席を取ったさ)、ワタクシ的には花丸五重丸の内容でしたが、登壇者の顔ぶれから、セッションの内容はだいたい想像がつきます。でも、I口(ふ)さんとは面識があるものの、J川さんはお名前をお聞きするのもこれが初めてで(スイマセン)、お二人で何を話されるのか、どんな風に翻訳者の未来を語られるのかまったく想像がつきません。その意味で、とても楽しみなセッションでした。

J川さんは主にファッションやサッカーの出版翻訳に携わられているとか。お名前からブログに辿り着くことができましたので、翻訳祭までに少し前知識を得ておこうと思っていましたが、結局時間がなくなって、最初(直近)の2~3ページを斜め読みすることしかできませんでした。それでも、熱いサッカー愛は伝わってきました。12月に「翻訳というおしごと」(アルク)という著書が出版されますが、セッションはそれを踏まえたものになる、らしい。
I口(ふ)さんは、ご存じの方も多いと思いますが、独←→日、英←→日の実務翻訳に携わっておられます。

セッションでは(パワポ等の資料はなく、本当に2人の対談のみで進められました)、まず、J川さんが、自己紹介を交えて、「なぜこのセッションのオファーを引き受けたか」を語られました。正直なところ、翻訳業界に明るい未来があるとはあまり思えなかったので、一度はオファーを断わられたそうです。その気持ちが変化したのは、「翻訳というおしごと」を書くために11名の翻訳者にインタビューをされてから。さまざまな分野の一線で活躍する翻訳者の話を聞いて、「そうでもないのでは」と考えるところがあったから、とのことでした。

続いて、I口(ふ)さんの自己紹介。I口(ふ)さんも11名のうちのお一人で、それが縁で「二人で対談を」という話になったようです。

J川さんは、「インタビューをするうちに、実務・映像・出版といった分野の壁を壊すところに未来が開けるのではないか」と思うようになったと言われました。ワタクシは正直この言葉がピンとこなかったのですが、「翻訳というおしごと」(当日アルクさんのブースで先行販売された)をぱらぱらとめくっておりましたら、「これがそうではないか」という箇所に遭遇しました(蛇足ですが、当日ブースで販売された50冊の最後の2冊を購入した者のひとりでございます...買えなかった皆さん、スイマセン)。「翻訳者は請負業者という弱い立場であり、一人ひとりができることは限られているが、分野の壁を越えて翻訳者同士が情報を交換し、連携してこれからの変化に対応するための方策を練り、力を養っていけば未来は開けるのでは」という部分です(文言そのままではありません)。ワタクシが受け取ったところをざっくりまとめると、「それぞれが自分のシマのことだけ考えていては未来はないぜ」「同業者は仕事を取り合う敵同士ではなく、仲間同士なのだから、協力して生き残ろうぜ」みたいな感じでしょうか。

続いて、お二人が、自分たちが翻訳の仕事を始めた約20年前と現在を比較して、感想や意見を述べていきます。

印象に残った話題を、順不同にいくつか。

・インターネットの普及で調べものが格段に楽になった。それと相前後して翻訳者の参入も増えた印象。「調べものはただ」という考え方も広まったような気がする。だが、「そんなに簡単に楽に安価にすませていいのか」という思いもある。便利で楽になった代わりに、失ってしまったものもあるのでは?(「必要な調べものにはお金をかける」という姿勢とかそういうことかなと理解)。
・力量のある編集者が減ったのでは。「よい本を」という編集者が減り、「売れる本を」しか考えない編集者が増えた印象。よい本を作るために編集者とやり合うことも減った。(*この話題については、セッションの後の方で、「変わってきているのを感じる」というお話がありました。J川さんの印象では、「残したい本、一気に売れなくても、息長く売れ続けるような翻訳本を出したい」と考える編集者も増えてきたような気がするということです。)
・(講師をしていて)「自分が訳したい本、訳したい著者」を挙げられる生徒や新人が減った印象。

続いて、話は「未来を作るのに大切なものは何だろう」(ここでは取りあえず個人レベルかな?)という話題に移ります。
J川さんもI口(ふ)さんも、口々に、勉強、自律、自己管理の大切さを挙げておられました。

・継続した勉強のないところに未来はない(でも、勉強のための勉強ではだめ)。
・個人事業主としてのビジネスマインドを持ち、「これは自分にしかできない」という形で自分を差別化することも必要(自律と自己管理の延長線上にこれがある、という理解でよいのかな)。

ここで、それぞれが「翻訳をする上で大切にしている三種の神器」の紹介がありました。

I口(ふ)さんは、翻訳以外の世界(翻訳を外から見る)、SNS、勉強会。
J川さんは、辞書・辞典、本を読むこと(リーディングの仕事がきたときに、出版する価値があるかどうかを判断することができる)、人脈(他人に自身を持って紹介できる人とのつながり)。

てことで、ワタクシも、自分の三種の神器について考えてみました。

1. 家族(ウチの場合は旦那だけですが)の理解。旦那自身は英語とは相性が悪いのですが(TOEIC 200点台で海外赴任した<単に勉強しなかっただけ、という説もある)、回し蹴りを喰らわしてやりたいと思うことも度々ですが、「翻訳は右から左にちゃっちゃとできるものではない」ということと「それを取り上げるとヨメは泣き暮らすらしい」ということだけは理解しているようです。
2. 資料とその在り処(手持ちの辞書や参考書だったり、図書館だったり、大型書店だったり、Amazonさんだったり。本の背表紙を眺めているとシアワせという安上がりなヤツです)。
3. 健康管理(「そもそもあまり体力がない」という自分の特性(?)を理解し、無理をし過ぎないよう気をつけています)。

...なんか、ショボいな<自分。

このあたりで残り時間も少なくなってきて、セッションはまとめに入ります。
お二人が掛け合うような感じで、それぞれに思うことを語られましたので、まとめをまとめるのがとても難しいんですけど、そこを強引にまとめてみると、

・お二人にとって翻訳は天職である。
・(生活のためには儲けることを考える必要もあるが)「請負が文化を支えているのだ」という使命感が必要では→そこから未来も開けるのでは。
・どこにどんな仕事があるのかなど、大変なときがきたらどうするかを前もって考えることも必要(そのために外の世界にアンテナをはることも大事)。

という感じになるかなと思います。

ワタクシなりにこのセッションをまとめると、お二人の基本は「やりたい仕事をやる、自分のやり方から外れる意に染まない仕事はしない」+「ビジネスマインド」ということになるのかなと思いました。ここでいう「ビジネスマインド」とは、収入アップということではなく、「自分は個人事業主であるという自覚を持ち、その自覚の上に仕事の絵図を描き、ときには言うべきことは言い、断る勇気を持つ」みたいなことかなと思います(...でも、相手の立場を慮る心の余裕は必要かと...)。自分はまだまだこの「ビジネスマインド」の点で欠けている部分が多いなと思いますので、今後、考えるべきところ、抑えるべきところはもう少しきっちりと抑えていきたいなと思います(あくまで屋根裏的願望ですが)。「翻訳のおしごと」(まだ斜め読み状態ですが)と併せてメモを読み返すと、あとになってじわじわくるセッションでした。

最後になりましたが、「翻訳のおしごと」、副題は「翻訳者に『未来』はあるか?」なんですが、英語はIs There a Future for Human Translators? となっています。ふ、深いがな。



以上で「翻訳祭2016」レポートを終わります。
期間中(?)、記事をUPした日は、通常の数倍のユニークアクセスを頂きました。

昨年までのワタクシのように、実況ツイートなどを眺めて「いいな~、行きたかったな~、来年は行きたいな~」とため息をついておられるに違いないたくさんの翻訳者の方に、セッションの内容をできるだけ詳しくお伝えしたいと思ったのが、しつこく3回に分けて個別レポートをさせて頂いた理由です。ワタクシは、表に出るような性格の人間ではないのですが、それなりに年も取り翻訳歴も(歴だけは)長くなりましたので、朽ち果てる前に、自分にできる形で少しでも「これからの方たち」のお役に立ちたいと思ったのですよね。
数字で見る限り、多少は役に立つことができたのかな、と思っております。

明日から「屋根裏」は通常営業(?)に戻り、1週間に1度の更新を努力目標とする、おおむねユルい内容のブログに戻ります。
「翻訳祭レポート」を読みに来てくださった皆さん、本当にありがとうございました。
今後は、「そういえばあんなブログもあったな」とたまに思い出して頂き、ときどき覗きに来てやって頂けましたら幸いです。
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2016.12.06 15:33 | 翻訳 | トラックバック(-) | コメント(11) |