屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

久し振りに読書感想文です。

海堂さんの小説は結構読んでいて、「屋根裏」でも何回か記事にしています。

アリアドネの弾丸
ナニワ・モンスター

海堂尊という名前は、ワタクシの「そこに『医療モノ』の本が」センサを発動させるのよね。

...と思って読み始めたら、何ということでしょう、ソコハカとなくラノベ調味料を振りかけた感のある、青春風味成長小説ではありませんか(というような分かったようで分からない訳文は書くまいと自戒したのはつい一昨日だったような気がしないでもありませんが)。文が走りすぎている感じがしないでもない部分もありましたが、そういうところは楽しんで書かれたのでしょうか。もちろん、成長するための選択はとても厳しいものではあるのですけれど。

主人公は、かつて「ナイチンゲールの沈黙」に登場した小児患者、佐々木アツシ。本作では、アツシの中3から高1までの期間が描かれています(そして、田口先生や如月翔子など当時の面々が、それなりにエラくなってちらりと顔を覗かせてくれるのも嬉しい)。
ジツは、アツシは、医療の進歩を待つための5年間のコールドスリープから覚めたあとであり、現在は「社会に馴染む」ことを学びながら、自分と入れ替わりにコールドスリープに入った元自分の管理人の女性の管理人をしています(このあたりの経緯は前作「モルフェウスの領域」に描かれているようですが、前作は未読)。

さまざまな意味で自分の殻に閉じこもっていたアツシは、最初はこじ開けられる形ではあったものの(少なくともワタクシにはそんな印象があります)、クラスメートらに心を開いていきます。クラスメートや天才ボクサー神倉さんなど、それぞれ個性的な(個性的すぎる)キャラクターも、皆どこか憎めず。でも、そういえば、海堂さんの描かれる大人キャラも殆どがそんな感じだったかも。
「ナイチンゲールの沈黙」は「ジェネラルルージュの凱旋」と同じ時間軸を扱った作品で、ワタクシは初読時、「ジェネラルルージュ」を陽、「ナイチンゲールの沈黙」を陰と捉えたのですが、「アクアマリンの神殿」も、真面目くさった顔で面白いことを書いているのですけど、全体を覆うトーンはその延長上にあるように感じました(ラストはそうでもないですし、あくまで個人的な感想です)。

詳細は割愛しますが、スリーパーの目覚めのときが迫ってきて、アツシは、覚醒後にスリーパーの記憶を消して新しい人格として覚醒させるか、記憶を残したまま覚醒させるかの選択を迫られます。それが、大人になるための「最後の踏み絵」になっているような印象です。
乱暴に書いてしまうと、選択の際に大事なことは、最後は「気持ち」だってことなんですが、そこに至るアツシとサポータのやり取りはワタクシにはとても難しく、何度読み直しても「正しく理解した」という確信が持てません。たぶん、「モルフェウスの領域」を読んでいないから余計だと思うのですが。ひとつ推測できたのは、「モルフェウスの領域」時には、コールドスリープに関する法律や倫理問題がまだ整備されていなかったのではないか、ということ。あくまで推測ですけど。

ジツは今日、再生医療の安全性とリスクに関するシンポジウムを聴講してきたのですが、その中で「新たな技術の臨床応用では、安全性やリスクの評価方法や規制が技術の開発と同時に走っている(本来先に存在すべきものの整備が遅れがち)」というような話も出まして、本当はそこは必死でメモを取っていなければならないところなのですが、ワタクシは何となくこの「アクアマリンの神殿」のことを考えていたのですよね。
なので、他にもいろいろ書きたい記事はあるのですが、「アクアマリン」を先にしてみました。

いろいろ書きましたが、面白かったです。成長物語、好き。
アツシ、スリーパーの日比野涼子、アツシのクラスメイト麻生夏美の登場する後日譚があるのかどうか気になります。

シンポジウムの内容は、また日を(年を?)改めまして。
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2016.12.23 21:48 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(6) |