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2018. 02. 07  
「補助人工心臓と医療機器翻訳ワークショップ」ということなので、これはもういかねばなるまい。
前週のJTFセミナーに続き、寒風の中を出動。今回の開催地は神戸。この風が、かの有名な六甲おろしなのか。

前半は、人工心臓の開発と実用化についての講義。
体外循環(補助循環)ポンプを開発された方のお話なので(ワタクシ的には)とても興味深いものでした。
ちなみに、正確には、移植までのBridge Therapyを意図した機器を(補助)人工心臓、手術用(といっても実際は1ヵ月程度は装着可能とか)の機器は体外循環・補助循環と呼び分けるようです。
仕事で扱うことはほとんどないので少し予習したのですが、国立循環器病研究センターの「ここまできた人工心臓」というページが、コンパクトにまとまっていてなかなか分かりやすかったです。
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph42.html

技術的側面と規制の面(承認のためのガイドライン策定)という2方向からの実用化に向けた取組みについてお話があり、両方向の話をまとめて聞く機会はなかなかないので、そのあたりも興味深く拝聴しました(技術的な話はワタクシには難し過ぎましたが...)。で、最後に、実用化された補助循環ポンプも見せていただきました。
今はYou tubeで医療機器の実物を確認できる機会も増えましたが、「意外に小さい」とか「こう動かすのか」など、実物を手に取って初めて分かることが多いのも事実。実際、初めてステントを手にしたときは、「こんなに細いものだったのね~(血管内に留置するので当たり前なんですが)」としみじみしたものです。というわけで、これからも、こういう勉強会には機会を捉えて潜り込んでいきたいと思っています。

「どこまで書いて大丈夫なのか」ということがイマイチよく分からないため、若干歯切れの悪い報告になっており、申し訳ありません。


後半は、医療機器翻訳者の方による、医療機器の概要説明と事前課題の訳文(和訳)の検討。

課題はステント。いつも仕事でやってるもんねー、うっしっし、と内心ほくそ笑みつつ、でも丁寧に訳して提出しました。
ワークショップでは、各パラグラフ2名(匿名)の訳文が紹介されたのですが、それを読んでワタクシは、ほくそ笑んだ自分を恥じました。もちろん、「医療機器に精通していない」という点で上手く訳せていない部分もありましたが、全体を通した訳文の質の高さはどうでしょう。基礎的な「医薬翻訳」力があれば、これだけの訳ができるのだと、出席者の方の実力に舌を巻きました(実際、翻訳学校で講師経験のある方が何名も出席されていました<ゼイタクな勉強会や~)。

1つの訳語を巡って、出席者から「こうではないか」「なぜそうなのか」と質問が飛び、それに講師や別の出席者がさまざまな意見を出す、という形で活発な意見交換があり、結局、課題の最後まで辿りつけなかったのですが、なかなか濃いディスカッションだったと思います。

ディスカッションの対象となった語句に「existing preclinical and clinical experience」というフレーズがありました。
課題は、治験報告書のexecutive summaryの冒頭部分(たぶん)。何をもとにこの試験の評価内容を決定したのかを述べる部分です。勉強会では、「製品の市販申請を意図した報告書なのに『existing ... clinical experience』とあるのはおかしくないか(まだ臨床使用されていないはず)」という素朴な疑問が提示され、何名もの出席者から、さまざまな可能性が示されました。特に、医療機器関連会社に勤められた後、医療機器翻訳者に転身されたという方の、申請の実際を踏まえた意見は説得力があり、「なるほど」と頷けるものでした。

ということで、帰宅してから、もう少し、このステントを巡る状況について調べてみました。
1 「existing preclinical and clinical experience」は、EUや米国の申請に関わるガイダンス等に用いられている、いわゆる定型表現なのか? → 調べたかぎりではそういう文書はないようでした。
2 このステントは今どういう状況にあるのか? → 少し調べれば、製造者と製品は「おそらくこのメーカーのこれだろう」というところまで特定することができます。現状、欧州で市販されており、各国の規制を見据えながら国際共同治験を行って、欧州以外の地域にも販路を拡大したい、ということのようでした。
そういう背景があっての existing ... clinical experienceなので、「実績」「経験」などの言葉を用いて問題ないようです(個人的には、「実績」とすることでexistingのニュアンスも含められるのではないかと思います)。
実際は、そうした背景も報告書の中に書かれているでしょうから、もう少し確信をもってこの部分を訳出することはできると思います(逆に言えば、背景が分からない状態では少し難しい課題だったと言えるのかもしれません)。

そして、ワタクシはといえば、「ああ、この種のステント知ってる」ということで安心してしまって、報告書の全体や背景まで思いを馳せることなく、(字面とは言いませんが)課題と参考部分の流れだけを考えながら翻訳をしてしまっていました(結果的に大きく外さなかったというだけです)。慢心していました、ということで、今一度自分を戒めるよい機会になったと思います。

そんなわけで、さまざまな意味で実になる勉強会でした。
今日も「屋根裏」は超絶寒いので、まとめが雑ですが、現場からは以上です。
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2018. 02. 01  

「水遣りを放棄したのに、花は届けられた(山口ミルコ) 」
2018年2月1日付け朝日新聞朝刊

これだけでは、分かりづらいかなと思いますので、「ことば」に続く鷲田さんの解説も記載しておきます。

***引用ここから***
退社してすぐガンが発覚し、闘病生活に入った編集者。肩書はなくなり、髪も貯金も急減し、ついに何者でもなくなると心細い思いでいた時、以前担当していた作家から仕上がった小説が届く。心底情熱を傾けたものは、途中で降りることになっても必ず誰かが後を継いでくれる。「欠席、可」。そう思い定めると、以後何ごとにもビクビクしなくなったと言う。「毛のない生活」から。
***引用ここまで***

少し検索してみると、この方が、バリバリの社内編集者だったのが、フリーランスとして独立し「さあ、これから」というときに病気を宣告されたのだということが分かります。
「毛のない生活」は、抗がん剤治療中に考えたことを綴った1冊らしい。

本を読んだらまた違う感想を抱くと思うのですが、私が「折々のことば」を読んで思ったのは、「水を遣る」ことの大切さ。
勝手に、もっと年配の方だと思い違いし(たぶん「何者でもなくなる」「肩書はなくなり」の部分から)、定年に近い年齢で退社しガンと分かり、自分の今後の人生設計やIdentityを根こそぎ持っていかれた(と感じた)のではないかと想像したのですよね。自分と世間をつなぐものはもうなく、世間はこのまま、何もできない自分を忘れ去っていく(と私が勝手に想像を膨らませているだけですよ、もちろん<念のため)。そんなとき届いた完成本を手にとって、「自分のことを思ってくれる人がいる」と安心する。

...でも、たぶん、本当は「情熱を傾けていたものは、それを見ていた人が後を継いでいいものにしてくれる → 今はあせらなくてもいいんや → 『欠席、可』」という流れなのかなと思います(書籍を読んでみないと分かりませんが)。

てことで、私の一読しての解釈はたぶん間違っていると思うのですが、いずれにしても、「それでも花が届く」という結果になったのは、著者が普段からしっかり「水遣り」を欠かさなかったからではないかと思うのです。花が届いたのも、途中で降りても後を継いでくれる人がいたのも、そこまで手厚く水を遣り続けていたから。育てようとしたものは、水遣りを辞めざるを得ない結果になってしまったときには、すでにしっかり根を張っていたのではないかと。

では、この仕事での「水遣り」は何だろう、とついつい考えてしまったりするわけです。因果な性格です。
いろいろ考えたのですが、結局は「常に顧客にとってのベストを考えながらきちんとした仕事をやり続ける」ことに尽きるのかな、という結論になりました、とりあえず。地味ですが「やり続ける」て結構ムツカしいと思うのですよね。そういう実績を積み、さらにその仕事を好きでやっていることが伝わってこそ、「あの人なら」という信頼を得ることができ、何らかの事情で自分にそれができなくなっても、たとえば、復帰を待って貰えたり、「この仕事はこの翻訳者がこういう姿勢でやってきた仕事です」として仕事自体も守られていくかもしれない。もちろん、それで「はいそうですか」と相手を納得させられるだけの仕事をしていなければならないわけですが。あと、そうであってほしいという願望、かなり入ってます。
そう言って貰えるよう、日々せっせと「水遣り」を続けたいと思うのでした。

もとネタから限りなく離れてしまいましたが、いつものことなので大目に見ていただけるとありがたいかなと。
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

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