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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

「補助人工心臓と医療機器翻訳ワークショップ」ということなので、これはもういかねばなるまい。
前週のJTFセミナーに続き、寒風の中を出動。今回の開催地は神戸。この風が、かの有名な六甲おろしなのか。

前半は、人工心臓の開発と実用化についての講義。
体外循環(補助循環)ポンプを開発された方のお話なので(ワタクシ的には)とても興味深いものでした。
ちなみに、正確には、移植までのBridge Therapyを意図した機器を(補助)人工心臓、手術用(といっても実際は1ヵ月程度は装着可能とか)の機器は体外循環・補助循環と呼び分けるようです。
仕事で扱うことはほとんどないので少し予習したのですが、国立循環器病研究センターの「ここまできた人工心臓」というページが、コンパクトにまとまっていてなかなか分かりやすかったです。
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph42.html

技術的側面と規制の面(承認のためのガイドライン策定)という2方向からの実用化に向けた取組みについてお話があり、両方向の話をまとめて聞く機会はなかなかないので、そのあたりも興味深く拝聴しました(技術的な話はワタクシには難し過ぎましたが...)。で、最後に、実用化された補助循環ポンプも見せていただきました。
今はYou tubeで医療機器の実物を確認できる機会も増えましたが、「意外に小さい」とか「こう動かすのか」など、実物を手に取って初めて分かることが多いのも事実。実際、初めてステントを手にしたときは、「こんなに細いものだったのね~(血管内に留置するので当たり前なんですが)」としみじみしたものです。というわけで、これからも、こういう勉強会には機会を捉えて潜り込んでいきたいと思っています。

「どこまで書いて大丈夫なのか」ということがイマイチよく分からないため、若干歯切れの悪い報告になっており、申し訳ありません。


後半は、医療機器翻訳者の方による、医療機器の概要説明と事前課題の訳文(和訳)の検討。

課題はステント。いつも仕事でやってるもんねー、うっしっし、と内心ほくそ笑みつつ、でも丁寧に訳して提出しました。
ワークショップでは、各パラグラフ2名(匿名)の訳文が紹介されたのですが、それを読んでワタクシは、ほくそ笑んだ自分を恥じました。もちろん、「医療機器に精通していない」という点で上手く訳せていない部分もありましたが、全体を通した訳文の質の高さはどうでしょう。基礎的な「医薬翻訳」力があれば、これだけの訳ができるのだと、出席者の方の実力に舌を巻きました(実際、翻訳学校で講師経験のある方が何名も出席されていました<ゼイタクな勉強会や~)。

1つの訳語を巡って、出席者から「こうではないか」「なぜそうなのか」と質問が飛び、それに講師や別の出席者がさまざまな意見を出す、という形で活発な意見交換があり、結局、課題の最後まで辿りつけなかったのですが、なかなか濃いディスカッションだったと思います。

ディスカッションの対象となった語句に「existing preclinical and clinical experience」というフレーズがありました。
課題は、治験報告書のexecutive summaryの冒頭部分(たぶん)。何をもとにこの試験の評価内容を決定したのかを述べる部分です。勉強会では、「製品の市販申請を意図した報告書なのに『existing ... clinical experience』とあるのはおかしくないか(まだ臨床使用されていないはず)」という素朴な疑問が提示され、何名もの出席者から、さまざまな可能性が示されました。特に、医療機器関連会社に勤められた後、医療機器翻訳者に転身されたという方の、申請の実際を踏まえた意見は説得力があり、「なるほど」と頷けるものでした。

ということで、帰宅してから、もう少し、このステントを巡る状況について調べてみました。
1 「existing preclinical and clinical experience」は、EUや米国の申請に関わるガイダンス等に用いられている、いわゆる定型表現なのか? → 調べたかぎりではそういう文書はないようでした。
2 このステントは今どういう状況にあるのか? → 少し調べれば、製造者と製品は「おそらくこのメーカーのこれだろう」というところまで特定することができます。現状、欧州で市販されており、各国の規制を見据えながら国際共同治験を行って、欧州以外の地域にも販路を拡大したい、ということのようでした。
そういう背景があっての existing ... clinical experienceなので、「実績」「経験」などの言葉を用いて問題ないようです(個人的には、「実績」とすることでexistingのニュアンスも含められるのではないかと思います)。
実際は、そうした背景も報告書の中に書かれているでしょうから、もう少し確信をもってこの部分を訳出することはできると思います(逆に言えば、背景が分からない状態では少し難しい課題だったと言えるのかもしれません)。

そして、ワタクシはといえば、「ああ、この種のステント知ってる」ということで安心してしまって、報告書の全体や背景まで思いを馳せることなく、(字面とは言いませんが)課題と参考部分の流れだけを考えながら翻訳をしてしまっていました(結果的に大きく外さなかったというだけです)。慢心していました、ということで、今一度自分を戒めるよい機会になったと思います。

そんなわけで、さまざまな意味で実になる勉強会でした。
今日も「屋根裏」は超絶寒いので、まとめが雑ですが、現場からは以上です。
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2018.02.07 00:47 | 翻訳祭・フォーラムetc.報告(2016-) | トラックバック(-) | コメント(2) |