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2019. 11. 20  

といっても、書籍の記述からの連想なので、実用的な記事ではありません、念のため。
(でもって、綺麗に着地できないまま終わっています、念には念のため)


最近、「日本人なら必ず誤訳する英文」(越前敏弥)に挑戦して、毎日ズタボロにされ、凹んでおります。
(購入したとき少し読んだきりそのままにしていたものです)

この本には、ところどころに「ちょっとひと息」というコラムがあります。越前さんがインタビュアーの質問に答える形になっています。その中に「資格試験というものは満点に近い点数をとれる実力をつけてから受けるべきですね。ギリギリで受かるぐらいなら、むしろ受からない方がいい」という一節がありました。英検についての話の中で出てきた言葉ですが、あとの方で、ご自分の大学受験にも触れ(2浪して東大に入学されています)、1浪目はおそらくギリギリのところで落ちたが、2浪目はかなり高いレベルで合格したはずだとも仰っています(1浪時は「わかった気になって実はよくわかっていなかった」伊藤和夫先生の授業の内容が、2浪することで「深く完全に理解できるように」なったと)。

このコラムを読んで、十分な実力をつけてから受けるべきという部分は、トライアルにも当てはまるんじゃないかと思いました。
(実力というのは曖昧な言葉で、実力の程度の自己評価は人によって違うとは思うのですが)
学校の試験でいえば、赤点ギリギリの点数をとっているような状態では、早すぎるんじゃないかと思うのです。

トライアルに関しては、「勉強ばかりしていないで、早くトライアルを受け、仕事をする中で学んでいくのがよい」といったアドバイスをよく見かけます。
このアドバイスには、納得できる点もあります。仕事と勉強では必死度が違いますし(少なくとも私は「だらだら度」は全然違います)、長時間集中すること、ミスをしないこと、効率を上げることなど、仕事をしなければその大切さを実感しにくいことも多く、さまざまな案件を受けることで知識の幅も広がります。
実際、私も、仕事を始めてから(おもに参考資料という形で)たくさんの業界用語・表現を身につけましたし、案件をこなす中で(付け焼き刃的なものも多いとはいえ)さまざまな知識を身につけました。それは、勉強ばかりしていては、なかなか身につかなかったものだと思います。

というものの、それらは、そうしたものを適切に訳文に反映できるだけの基礎力があったからこそ身についたものだとも思うのです。
英語読解力・日本語表現力・専門知識(の基本)・きちんとした調べ方と辞書の読み方――最低限こうしたことが身についた状態でトライアルを受けなければ、すぐに仕事がとれるレベルの評価は得られないのではないかと思います(英検のでんでいけば圧倒的実力がついてから、ということになるのでしょうが、それはやはり現実的ではないのではないかと)。
少なくとも、これからは、単価交渉で心理的に劣勢に立たず、自分を安売りしないだけの力がついたと思えてからトライアルに臨んだ方がよいのではないかという気がします。本当は翻訳がやりたいのに、PEに誘導されることがないようにするためにも。

力がついたかどうかを図るひとつの目安は、雑誌の誌上トライアルやアXXXの定例トライアルかなと思います。時間と資金が許せば、短期講座を受けて感触を掴む…という方法もありかもしれません。

ただ、そうやって勉強を続けた場合、「勉強することが目的になる」という落とし穴があるのですよね(←落ちたことがあるヒト)。ズルズル勉強ばかり続けないように、1年なり2年なり期限を切って勉強することも必要かと。越前さんは「性格的にコツコツ地道にやるタイプではないらしく、やるときとやらないときの差がかなり激しい」と書いていらっしゃいますが、「やるとき」にされたことを読むと、常人にはなかなか真似のできない量/質の勉強をされています。

期限を決めて(可能であれば)高負荷の勉強を、ということになると、そのあいだ、仕事との両立をどうするかということも考えないわけにはいきません。
(結婚してからのほとんどの期間を、旦那の安定したサラリーマン収入の下で、明日の生活の心配をすることなく生きてきた私に、偉そうなことは言えないのですが…)
今仕事に就いている方は、可能であれば仕事を続けた方がいいと思います。さまざまな理由で辞める方を選ぶ場合は、勉強期間+1年程度は無収入で暮らしていけるだけの資金を貯めてから辞める方がいいのではと思います(←私は後者のタイプでした>>翻訳を志したときはまだ未婚だった>>結局「辞めよう」から「辞める」まで2年掛かりました)。

トントン拍子に仕事を得ていく方もいらっしゃいますが(でも、そういう方の多くは、たいてい見えないところでとんでもない努力をされていると思います)、コンスタントに仕事をとれるようになるまでは、それなりの時間が掛かるのが普通。好き、面白そうという気持ちがあり、長い期間続けたいと思える仕事なら、長期計画で進めた方が、結局は長く続けられるのではないかと思います。

この頃、目を疑うような単価を目にすることが多くなりました。
楽して短期間で翻訳者になろうといった講座についての話も耳に入ってきます。

翻訳は決して楽な仕事でもオイシイ仕事でもありません――そもそも翻訳に限らず、オイシイ楽な、それでいてきちんとした仕事など、本当に存在するのでしょうか。
これから仕事を、と考えておられる方は、雑誌を読む、(ツイッター→ブログ→書籍などの順に)さまざまな立場の方の意見を読むなどして現状を知り、十分な力をつけてからトライアルに挑戦していただけたらと思います。結局はそれが、仕事を始めてからも搾取されず、知らないあいだに波にのまれることもなく、自分の進みたい方向に進むための早道ではないかと思うのです。
そして、一度コンスタントに仕事がくるようになっても、その状態がいつまでも続くとはかぎらない。勉強(というのは、原文読解力を高め、日本語文章力を磨き、必要な専門知識を学び、対応する分野の今後の動向を注視する…などになるでしょうか)を続けなければ置いていかれてしまう、厳しいけれどやりがいのある仕事だと思っています。

着地点が見えないので(?)このへんで失礼します。
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医学・医療機器和訳から
医療関連の書籍翻訳にシフト中
『患者の話は医師にどう聞こえるのか』共訳
『医療エラーはなぜ起きるのか』
現在3冊目と格闘中
還暦を過ぎて(やっと)
翻訳は楽しく苦しく難しいと実感
老体に鞭打って勉強に励む日々
翻訳関連の雑感・書籍紹介・セミナー感想など
(2023年5月現在)

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