屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

CD Bookの聞流し終了。
なので、Sayo渾身の力作だい。
(単に長いだけと言う説もある)

The Clifton Chroniclesと呼ばれる5巻モノの第1巻だそうな。毎年3月に最新巻が刊行される予定で、現在2巻目(The Sins of the Farther)まで刊行済み。来年3月に第3巻が発刊される予定。

現時点で邦訳はない様子。
ストーリー&登場人物の説明はWikipediaに簡潔に纏められていました。

Only Time Will Tell→ 
http://en.wikipedia.org/wiki/Only_Time_Will_Tell_(novel)
The Sins of the Farther→ 
http://en.wikipedia.org/wiki/Sins_of_the_Father_(novel)

イギリス英語なので、最初はちょっと聞き取り難かったですが(人間関係もよく分からないし)、慣れてくるとさくさく進めることができました。分かり易い英語と思います。何よりも、ストーリーが波乱万丈ですから、一気に読めるかと思います。

Jeffrey Archerを作者読みしていた時期がありました。
読了した作品は以下のとおり。

Shall We Tell the President? (「新版・大統領に知らせますか?」
Kane and Abel(「ケインとアベル」)
The Prodigal Daughter(「ロスノフスキ家の娘」)
First Among Equals(「めざせダウニング街10番地」)
A Matter of Honour(「ロシア皇帝の密約」)
As the Crow Flies(「チェルシーテラスへの道」)
Honour Among Thieves(「盗まれた独立宣言」)

この他に短編集を何冊か。
あ、言うまでもなく、すべて日本語です。

読了した長編のうち、「新版・大統領に知らせますか?」「ロシア皇帝の密約」「盗まれた独立宣言」の3篇は、FBIエージェントなどが活躍するサスペンスもの。残りが、サーガと呼ばれる主人公の一代記です。
「Only Time Will Tell」は後者の範疇に含まれます。主人公Harry Cliftonは1920年生まれ。CD最後の著者インタビューでは、Archerは「Harryは全5巻に登場する」と述べていますので、最終巻の最後で95歳の現代に存命(予定では最終巻は2015年春刊行のはず)、という結末になるのかもしれません。Archerのみぞ知る、ですけど。ちなみに「Only Time Will Tell」の扱う時代は1920年~1939年です。

主要登場人物数名の視点から各章が語られ、各章の冒頭部分は、その人物の1人称で語られるという構成は「チェルシーテラスへの道」と同じ。Story tellingがマンネリ化しないし、意外な形で伏線が回収されたりするので、今回のような(超)長編には合っていると思います。

さて、本書の詳しいストーリーは、アマゾンさんの書評や上記Wikipediaさんに譲るとしまして、以下、思いつくままに感想など書き留めておきます。あくまで個人的な感想です。

その前に、ちょっとだけ人間関係を把握。
Harryは、港湾労働者Arther(故人)&Maisie Cliftonの一人息子ですが、Maisieが結婚直前に一度だけ関係を持った、船会社経営者Sir Walter Barringtonの息子Hugo の子供である可能性もあります。Masieは勿論そのことを息子に知らせるつもりはかったのですが、Harryが奨学生として入学した寄宿学校で親友となった少年GilesがHugoの息子だったことから、Harryの存在がHugoの知るところとなり、その後、Hugoは様々な形でHarryの未来への障害として立ちはだかります。一方、HarryはGilesの妹Emaと恋仲に。

主人公が数々の困難を跳ね除けて成長し、社会的にも成功するという基本部分は「ケインとアベル」も「ロスノフスキ家の娘」も「めざせダウニング街10番地」も「チェルシーテラスへの道」もほぼ共通しているのですが、そうした、少し間違えば既視感漂う焼き直し的ストーリーになってしまう恐れのある似たような物語を、別パターンで綴り、飽かず読ませる筆力と言いますかプロット組立て能力はさすがと思います。
同時代を複数人の視点から語るには、1つの時間軸の中で、それらの人物が別の場所で何をしどのように考えて行動していたかをきちんと把握しておかなければならないわけですが、時系列表でも作ってるんかと思われる緻密さで、Prestonさんに続き、この方の脳内も覗いてみたくて仕方のないSayoなのでした。

しかしながら、ストーリーは超一級ですが、人物描写について、ちょっともやもや感が残りました。それは、登場人物が、多分に「いい人」「悪い人」にかなりあっさり2分されているせいもあるからなのかなと。さらには本巻においてほぼ唯一の悪役と言えるHugo Barrington氏は、Harryの未来に立ち塞がるラスボスと呼ぶには余りにも小者に思えてなりません。ていうか、言うたらただの小心者の卑怯者やし。さらに、自分&家名&財産を守るためにこれくらいのことをやってのける人間は、恐らく掃いて集められるくらいはいるでしょうから、彼が悪役に分類されるのはちょっと不憫というのもあります。

逆に、「様々なものを犠牲にして息子を立派に育て上げようとした」と多くの人間から称賛されるHarryの母Maisieは、結婚直前に、好奇心も手伝って合意の上でHugoと関係を持っており、夫亡き後は、Harryにきちんとした教育を受けさせるために身を粉にして働きますが、途中ちゃんとステディな相手もできています。たぶん、Harryを身篭ったと分かった時に、Maisieが悩み苦しみ、自分の若気の至りを後悔した末に、この秘密は墓場まで持っていこうと決心するような描写があれば、Maisieが善き母として称賛され、Hugoが悪役として描かれることにも抵抗はなかったと思うのです。そういう描写が全くなかったために、最後まで、Maisieが力一杯称賛される度に、微妙にもやっとしてしまったのでした。

(以上の感想は、聞き取り間違いによる誤った理解の上に立脚している可能性がありますので、多少割り引いて聞いてやってください)

そんな私が一番好きだったのは、HarryのMentorであるOld Jack TarことCaptain John Tarrant氏。Old Jackはボーア戦争で24名の同胞兵士を救った功績によりビクトリア十字勲章を受章するのですが、その際11名の敵兵を殺した自分を許すことができず、浮浪者のような失意の生活を送っていたのですが、Harryが彼に出会った当時は、戦友であったSir Walterの好意により、Dockの夜警として廃車になった1等車に住んでいました。そんな彼が、幼少のHarryの中に天才を見出し、彼との触れ合いを通して救われていき(微妙に違うかもしれないですが、大体そんな感じ)、ついには再び元英雄Captain John Tarrantとして生きるようになります。

Old Jack Tarが訳書では何と訳されるのかはとても興味のあるところ。「オールド・ジャック・タール」になってしまうのかもしれないですが、もうちょっと捻ってほしいなあと思います。「そんならお前が考えろや」と言われてしまうと、不肖Sayoもいい訳語を思いつかず「オールド・ジャック」としてしまいそうですが。「人形使い」(ハインライン)で、皆から恐れられ慕われた組織のボス(の愛称)Old Manが「おやじ(ルビつき)」と訳されたような、或いは、「夏への扉」(同)で、今日のルンバによく似た自動掃除機hired girlが「文化女中器(ルビつき)」と訳されたような(←注:40年以上前の作品です)、そんなSayo的座布団1枚を期待。

そのOld Jackの死の場面も秀逸。
行方不明になったOld Jackを探し回ったHarryは、彼の以前の住まいである1等車両で、やっと、椅子に座っている彼を見つけると、彼の向かいに腰を下ろし、彼と出会ってからの日々を思い出します。その時点で、2人の会話がないことにちょっと違和感。そのうち、読者にも、だんだん、Old Jackは既に亡くなっているのだということが分かってきます。でも、彼の死は最後まで語られず、最後に、「Harryはそれまで人は死なないものだと思っていた(←ちょっと表現が違うかもしれませんが)」という形で、読者にOld Jackの死が知らされます。加齢と共に涙腺弱いSayoは、涙なくしてこの部分を聴くことはできなかったのでした。

こうして、Old Jackに肩入れ・・・もとい感情移入してしまうのも、彼については、その心の内(とその変化)がきちんと描かれていたせいもあるのかなと思います(もっとも、Maisieを初めとする他の主要登場人物の内面描写が不足しているんじゃないか思えるそのこと自体も、Archerのことですから「お話の都合上今はあまり詳しく描けない」ということで、2巻以降で、伏線回収的に語られるのかもしれません)。


そのような感じで、畏れ多くも大胆にも、「ここが残念」と言ってみたりもしましたが、それでも、全体として一級の物語だと思いますし、最後まで楽しませて頂きました。あと4巻もこのレベルを保ったまま行ってほしいです(生意気な読者です)。

そんな訳で、ドラマチックな一代記好きな方にはお勧め。
ただ、「え、そこで終わりですかい?」というところで話が終わり、この傾向はたぶん4巻目まで続くものと予測されるため、次巻の発行まで待つのが辛いかもです。
2012.12.22 14:19 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(0) |












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