屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

読書感想文回。

そう言えば、暫く前にTVドラマやっていたなあと、図書館で何となく手に取りました(ドラマの方は未見)。以前、同じ作者の「阪急電車」を読んで、格好いい登場人物の女性達に、爽快としたよい気分になったことがあったので。

あっしはおばさんなので、少し軽めの話し言葉が多用される「口調(文体)」が多少馴染まない部分はありますが(少し調べてみましたら、この方の作品や、例えば「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズなどを、ヤングアダルトと一般小説の中間にあたる位置付けに分類している方がおられて、ナルホドと思う部分がありました)、一気読みする面白さではありました。

ひと言で言えば、航空自衛隊という少し特殊な環境における広報を描く、ある意味「お仕事小説(自衛隊的広報)」で、交通事故でパイロット業務を続けることができなくなり広報室に配属された空井大祐と、広報室の取材を担当するTV局のディレクター稲葉リカの成長物語でもあります。甘さは控え目。

綿密な取材をなさったことが窺える表現や情報が、話の展開の中に、自己主張しすぎることなく配されていて、話を組み立てるのが上手い方だなあと思いました。

ただ、あくまで個人的な感想ですが、途中ところどころ、広報室の同僚達の話が挟まれ、意識がそちらに逸らされてしまい、空井とリカの成長物語が線で繋がらなかったような気がします。まあ、一気に行きましたので、読み落としている部分もあるかもしれませんが。
また、大変面白くはあるのですが、本作自体が多少「自衛隊広報小説」の色を帯びているようにも感じられ、少し残念な気がしました。取材対象に愛着が湧くのは、これはもう当然のことだと思うのですが、実力のある方だと思うので、感情移入はもう少し手前で踏み止まって、黒い部分も嫌なヤツも描いてほしかったなと思わないでもありません(まあ、これはこれでいいのかな)。

この小説は、2011年夏出版予定で執筆が進んでいたのですが、「震災に言及したい」という作者の意向により(「松島基地の、そして空自広報の3.11に触れないまま本をだすことはできないと判断しました」と後書きに書かれています)、「あの日の松島」という章を追加して、翌年夏に出版されました。
この「あの日の松島」自体は、静かな感動の伝わってくる章なのですが、「付足し」感が否めません(これも、あくまで個人的な感想です<念のため)。「空飛ぶ広報室」は、小説としては、その前の章で完結しており、そこで終わっていた方がよいような気がしました。
空井もリカも、震災を経て、色々考えること変わったことがあったでしょうし、描くのであれば、「一章追加」という形ではなく、続編という形で、「その後」をきちんと書いて頂きたかったなと思いました。


最後に、「お仕事小説」としてアンテナに引っ掛かった言葉を。

広告代理店で1年間研修して戻ってきた部下に対する室長の言葉。
「自衛隊は倒産しないもの。だから時間を金に換算する習慣もない。コストの概念が根っこから違う世界に飛び込んで、一年食らいつけたんなら上出来だ」(186頁)

毎月きちんと旦那様の給料が入る主婦という立場も、「倒産しない」と言えるのかなと。もちろん、リストラや退職など、サラリーマンにも倒産はあるでしょうし、私も外向きには「いつ辞めるか分からんし(自分も頑張って稼がなあかん)」と言ったり、漠然とそうした不安を感じたりしてはいましたが、1年前まで、それはやはりどこか「他人事」でした。室長がそうであるように、私と同じ立場でも、しっかりコストを意識されている方も多いでしょうが、少なくとも私は、「でも旦那の給料あるし」という安心感の上に立った、緩いコスト意識しか持っていなかったような気がします。という訳で、個人的に、かなり突き刺さった室長のひと言でした。


読了後、ドラマのウエブサイトを訪問しました。稲葉リカ役の新垣結衣さんは、(あくまでイメージですが)まんまリカやなあと思いましたが、空井役の綾野剛さんは、私の中では、「カーネーション」の周防さんや「八重の桜」の殿の印象が強く、小説版の空井とはあまりマッチしませんでした。綾野さんがどんな空井を演じられたのか、機会があれば見てみたいなと思ったのでした。
2015.06.06 17:11 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(0) |












管理者にだけ表示