屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

暫く真面目に翻訳に関する記事を書いてきたため、髪がかなり薄くなってしまったのでした。
というわけで、今日は読書感想文です。

我ながら、統一感に欠ける2冊。

「約束の海」(山崎豊子)

「約束の海」は「訃報・山崎豊子」でもちらっと書いた山崎豊子さんの未完の遺作。
連載された1部+2、3部の構想ノート(プロット)が収められています。

山崎さんの文章は本当に久し振りだったのですが、「ああ、山崎節(?)ってこうだったわね」という感じ。上手く説明できませんが、昭和感満載の固い文章というか(まあ、第1部は1980年代後半年が舞台なんですけど)。台詞部分の口調が些か古めかしく感じられないでもないですが、全体的な重厚感、個人的にはキラいではありません。ちょっとしたやり取りの中に、舞台となる海自の潜水艦の仕組みや内部事情などを挟み込んでくるやり方は、緻密な取材に基づいて本を書かれる山崎さんならではと思います(なので、ホント、あとは、この重々しさに立ち向かう気力だけなのよ)。

第1部では、海上自衛隊の潜水艦「くにしお」所属、将来を嘱望される花巻二尉が主人公。
実際に起こった潜水艦「なだしお」の衝突事件をモデルにしています。
衝突事故に続いて、衝突で亡くなった相手方の船の乗客遺族への謝罪、事情聴取、裁判の模様などが描かれ、責任を感じ一時は辞任を考えた花巻が、ハワイでの新たな任務を与えられたところで第1部は終わります。亡くなる前に完成していたのはここまで。

内容については、文藝春秋の2014年の対談にうまく纏められていると感じましたので、興味を持たれた方は一読なさってみてください。
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/1041

2部では、第二次大戦の日本人捕虜第一号、酒巻和男氏をモデルにしたと言われる、花巻二尉の父(の当時の回想?)を中心に話が進むはずだったようです。
3部では、舞台は再び現代(21世紀初頭)に戻り、東シナ海での日中の衝突が描かれる予定だったようですが、3部の構想ノートは、本当に粗筋+α、という感じで、これからさらに取材を進めるということでしたから、社会情勢も睨みながら、(キモの部分は変わらないとしても)また異なる描き方をなさったかもしれません。主人公の恋の成就についても、結末は決めておられなかったようですから。

様々に想像を膨らませる余地を頂いた分、個人的には意外に満足の「約束の海第1部+構想ノート」でした(でもって、くたくた)。
小説の構想の練り方は小説家の方によって千差万別でしょうが、そうした「構想手法」の1例としても興味深かったです。


「何者」(朝井リョウ)

年齢的には「息子」と呼んでも差し支えない若い世代の方の作品を初読み。
この小説で、平成生まれとして初の直木賞を受賞されたそうですね。

少しネットを彷徨ってみましたら、今秋映画化されるということが分かりました。
人間関係やら粗筋のまとめがなかなか素晴らしかったので、さくっとお借りしてきました。
https://www.toho.co.jp/movie/lineup/nanimono-movie.html

5人の学生の就活を中心に話が進み、その中に、Twitterでのツイート文が効果的に挟まれます。
イマドキの若者はこんな風に喋るんだろうなという感じで、会話部分がリアル。リズムもよくてさくさく読めてしまいます。
その中にふと「香ばしく苦い香りが、ふと、俺の頭の中に陰を作る」などという表現が混じり、雰囲気だけではなく吟味した上でその表現を選んでいるのだとすれば、凄すぎる。

内容の方は、油断しているとパンチを喰らうような、なかなかに深いものでした。

内定を得るため、建前でツイートし、就活仲間と相談し合い励まし合いするけれどそこに100%の本音はなく、「痛い」と思われていると分かっていながら「痛い」努力を続ける。
(これだけネットが発達した現代だから、これはもう、やむを得ないことなのかもしれませんが、)自分もある程度の情報を発信することを強いられ、他人の情報も目に入り、その情報がまた不安をそそる。

就活とは、まず、自分が何者なのかを、自分で自分をごまかさずに、きちんと見つめるところから始まるのかもしれません。その上で、「痛い」努力をする、逃げる、ありのままの自分をさらけ出す、相手の求めるものを見極め合わせられる部分を合わせる、などなど、人によって様々なやり方がある、ということなのかな(小説の主人公達が、これら全てを体現しているということではありません<念のため)。

観察者の立場に身を置いて、「きちんと見つめる」ところから逃げていた主人公拓人ですが、ラストでは「ありのままの自分をきちんと曝す」形で面接に臨みます・・・たぶん、落ちると思いますが。でも、彼は、「自分は○○」という、今の時点で「拠って立つもの」を手に入れたような気がします。

この読書感想文を書いていて、ふと思い出した小説がありました。
それは「女と男の肩書き」という、藤堂志津子さんの小説で、頑張って2行にまとめると、「一般職として入行し三十路に掛かろうとする女性行員が総合職転換を打診され、紆余曲折あるが、試験を受けようと決心する」というお話で、「総合職になるなら女の幸せはあきらめないといけない」みたいな、現代なら世の女性から回し蹴りくらいそうな表現も出てきます。でも「そうだよね~」と、あっしのような平凡な女性がフツーに納得してしまう、そんな時代のお話です。

主人公は、悩み迷いながらも「自分」は持っている女性だと思うのですが、小説では、組織で働く限りは「会社で自分がこう見せたい、こうありたい」という姿に自分を合わせていくのだ的な悟り(?)を開き、それを社会人の「鎧」と表現し、「自分は女性らしいしなやかな鎧を身にまとおう」と決心します。ラストでは、どういう形を取るかは分かりませんが、「仕事も女性の幸せも?」が軽く暗示されています。
と書くと、爽やかなお仕事成功物語のように聞こえますが、どうしてどうして、不倫あり、行内スパイあり、恋愛からの刃傷沙汰ありと、結構どろどろした内容です。
(うろ覚えなんで、多少間違っているかもしれません)

何でこの小説を思い出したかというと、ただただ、もしかしたら、就活は、「自分」というものを持った上で「会社の求める社員像」に合わせられた場合に内定でやすいのかも、とふと思ったりしたからに過ぎないんですが(汗)。それはもう、あっしが勝手にそう思っただけで。
もちろん、内定は就活のゴールではあっても、人生のゴールではない訳ですし、就活にも人生にも正解はないと思うのですが、「わたしは」と1人称で自分を語ることができれば、少なくとも(そう)後悔しない人生は歩めそうな気がします(と錯覚しています)。
2016.05.19 15:22 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(2) |

Yasukoさま、まいどです~。
おお、今度は下のお嬢様が就活なのですねー。否応なしに周りの情報が目に入ってくるイマドキの就活、本当に大変ですね。お嬢さんにはリアルすぎるのかもしれませんけど、「小説」として楽しんで頂ければと。お嬢さんの就活が実り多いよい結果になるよう、今から祈ってます~。

2016.05.20 17:57 URL | Sayo@屋根裏 #- [ 編集 ]

sayosama まいど~。

「何者」即行ぽちりました。長女が昨年就活、次女が来年就活を控えた我が家に一冊あるべき本ではないですかー。読むのが楽しみ(^^♪

2016.05.20 14:00 URL | yasuko #- [ 編集 ]













管理者にだけ表示