屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

例によってSayoさんが修羅場っているため(Sayo辞書に「学習する」という言葉はないようです)、ブログにひと休みして貰うことにしました。


R.A.ハインラインの「輪廻の蛇」という作品をご存じでしょうか。蛇がぐるぐるする話・・・じゃなくて、最初の1文と最後の1文がまったく同じで、いつまで経っても話が終わらない、というお話なのですが(手元にないので、詳細は多少いい加減です)、初読時に衝撃を受けたことを今でも覚えています。

そして、恐れ多くも、いつか自分も、蛇がぐるぐるするお話を書いてみたいと思っていました。
でも、ワタクシの妄想力では、きちんと話を繋いでオチにつなげて、の蛇がぐるぐるは、どう足掻いても不可能で。(中略)部分はめっちゃしょぼい、いわゆる「夢オチ」です。ハインライン、凄すぎ(泣)。
(いつものように名前はアルファベットに変えました。連作の途中なので、冒頭、多少分かりにくい部分がありますが、どうぞご容赦ください)

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 Aは、湯気の立つマグカップをコーヒーテーブルの上に置き、新聞を広げた。朝食後自分でコーヒーを淹れ、英語の勉強も兼ねて居間でゆっくり新聞を読むのが、アメリカに来てからの日課になっている。

 Bがいた間は、午前中居間にいることの多かった彼女の周りに、普段は昼近くまで寝ているJも含め、手の空いた仲間が自然と集まってくる格好になったから、Aは落ち着いて新聞を読むことができなかった。別に彼女が邪魔だったわけではない。親しくなる、というほどではなかったが、それでも、彼女が去ったあとは一抹の寂しさを感じている。だが、とにかく、これで彼の平和なひと時が戻ってきたことは間違いない。

 ニュースセクションの見出しにざっと目を通したが、たいしたニュースはなさそうだ。コーヒーを一口すすってから、ビジネスセクションを取り上げる。
 日本の中堅企業がアメリカ市場でロボット犬を新発売した、というニュースが目を引いた。ロボット犬といえば、日本ではSONYのAIBOが人気を博していたが、写真で見る限り、こちらのロボット犬の方が、より本物に近い感じがする。
 発売日当日、何百人もの客が、その犬を求めて電化製品量販店に群がったという。
 担当記者は、かなり冷めた目でその狂騒ぶりを揶揄し、多くの人間が、寂しさは紛らわせたいが生き物の世話をするのは面倒くさい、というかなり身勝手な理由でロボット犬を購入しているようだ、と結んでいた。

 本物に近づくべく進化を続ける自律型ロボットと、機械にもっとも近いところにいる自分 ―― 似たり寄ったりの存在と言えなくもない。多少の親近感が湧いた。
 もっとも脳味噌だけは違う。いくら判断力や感情を備えたといっても、所詮彼らの脳は人工の産物だ。本物の脳とは比ぶべくもない。

 他のニュースを斜め読みしてスポーツに移ろうとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。この家にはめったにないことだ。

 「A、お願い。ちょっと手が離せなくて」
 キッチンからFの声が聞こえた。

 しょうがない。持ち上げかけたマグをテーブルの上に戻し、立っていって明り取りの小窓から外を覗いた。足元に大箱を置いた男が、ポーチに立ってキョロキョロとあたりを見回している。ドライブウェイの先には、Fedexのバンが停まっていた。怪しい人間ではなさそうだ。


(中略)


 身体を強く揺すぶられ、Aはハッと目を覚ました。
 心臓が咽喉元までせり上がり、全身にびっしょり冷や汗をかいていた。

 「どうしたの、Aったら。ひどくうなされて」
 片手に毛布を抱えたFが、心配そうに自分を覗き込んでいた。もちろん、その目には理知の光が宿っている。

 Aは、自分がソファに横になっていることに気づいた。
 では、あれは夢か・・・
 急いでテーブルの上の新聞を引っ掴み、日付を確認する。それはハービーが送られてきた日 ―― いや、今朝の日付だった。例のロボット犬発売をめぐる記事のページが開いてある。ということは、新聞を読みながらうたた寝しちまったってわけか...
 「寝てたのか...」
 「やあね、覚えてないの?」
 Fは、何を寝ぼけているのだと言わんばかりに、彼の肩を軽く小突いた。
 「あまりよく寝ていたから、しばらくこのまま寝かせておいてあげようと思って、毛布を取って戻ってきたら、うなされてるじゃない。びっくりしちゃった。よっぽど悪い夢を見たのね」

 ああ、もう死ぬまで見たくないような夢だ。

 「眠るのならベッドに入った方がいいわよ。こんなところでうたた寝してたら、毛布があっても風邪を引くかもしれない」
 Fは、毛布を彼の脇に置くと、キッチンに戻っていった。おかしなところなど全くない。いつものよく気のつく世話焼きのFだ。

 だが、考えてみれば、いくら洗脳されたとはいえ、彼らが自分を襲ってくることなどあろうはずがない。まったく、とんでもない夢を見たものだ。きっと、こいつのせいだな ―― と新聞の記事をひと睨みする。
 とにかく、しばらく寝るのはごめんだ。もう一杯コーヒーを飲んで頭をすっきりさせるとしよう。
 すっかり中身の冷めてしまったマグカップを手に立ち上がりかける。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。この家にはめったにないことだ。

 「A、お願い。ちょっと手が離せなくて」
 キッチンからFの声が聞こえた。

 立ち上がりかけた姿勢のまま硬直した。
 30秒、いや、1分近くそうしていたろうか。Aはふうとひとつ深呼吸をして肩の力を抜いた。まったく、何を馬鹿なことを考えてるんだ。
 マグをテーブルの上に戻し、立っていって明り取りの小窓から外を覗いた。足元に大箱を置いた男が、ポーチに立ってキョロキョロとあたりを見回している。ドライブウェイの先には、Fedexのバンが停まっていた。

「Harbie, the Dog」(初稿2005年)
2016.11.26 00:14 | 好きなもの・こと | トラックバック(-) | コメント(0) |












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