屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

* 「屋根裏」では講師の方のお名前はそのまま記載しない原則ですので、登壇者4名をI口、F井、T橋(さ)、T橋(あ)とさせて頂きます。で、分かるよね。

「翻訳のレッスン」の著者4名によるシンポジウム「翻訳とはなにか~足元を見直そう~」

キーワードは「絵を描く」。

各自の自己紹介のあと、まずF井さんから、料理手順の説明などの例を使用しながら、「言語Aの著者と言語Bの読者が、頭の中に思い浮かべる絵が同じになるようにするのが翻訳である」というお話がありました。たとえば、長い原文を2文に分ける/分けないや、訳語Aと訳語Bのどちらを使用するかなどを決める際にも、「どちらの方がより原文に近い絵が描けるか」を判断基準とすれば、より適切な判断(翻訳)ができるはずでは、とのお話は、「絵を描く」ことのみならず「自分の拠って立つ揺るがない基準を決める」ことの大切さにも(言外に)言及されているように思いました。

続いて、主に特許翻訳を専門にされるT橋(さ)さんが、絵は(F井さんが主に専門とされる)映像やエンタメだけのものではなく、自分の分野でも、化学式、機械図面、フローチャートなどが「絵」にあたるのだ、というお話から初めて、「読み手が、書き手の頭の中を見る(理解する)ことができる訳文」について説明されました。そのような訳文を作るために、何を読み取ればよいかということで、T橋(さ)さんは、原文に書かれている事実以外に、5つの点を挙げられました。文章外の留意点3点(どんな人が書いたのか、何のために誰に向かって書いたのか、どんな背景知識に基づいて書いたのか)と、文書内の留意点2点(文脈や文同士の関係、きちんと伝えるための書き方の工夫)です。こうした押さえるべき点を押さえた訳文が、読み手がきちんと理解でき、書き手が伝えたいことが正しく伝わる望ましい訳文だとまとめられ、「じゃ、具体的には何が必要かを知りたいですよね」と、次の登壇者にバトンを渡されました。

T橋(あ)さんは、「翻訳のためのツールとは何だろう」というところから、話を始められました。
壇上のスクリーンに、机や椅子から始まって、PC、ソフトウェア、CATツール、辞書、翻訳者の頭など、さまざまな「ツール」が追加されていきます。
翻訳支援ツールとは、「絵を描くことを妨げない」「絵を描くことに役立つ」ツールであるべきで、辞書はそうした強力なツールのひとつであり、だから、最近は各所で辞書に特化した話をするようにしていると、実例を交えながら、辞書の使い方について簡単に説明されました。逆に、きちんと絵を描く妨げとなりかねないツールは、上手く使わなければいけないというような話をセッション2でします、と軽く次の(いわゆるCAT)ツールに関するセッションの前振り(?)をされて、最後のI口さんにバトンタッチです。

I口さんのお話は「用語の統一」について。
うまくまとめられないのですが、「絵を描く」ことと「用語の統一(同じ単語に同じ訳語を用いる)」をどう関連付ければよいか、といったようなお話です。目的はあくまでも「絵を描く」ことで、そのための手段として「用語の統一」があるはずで、目的を達成できる範囲内での手段の効率化はどんどん図っていくべきだが、往々にして「手段の目的化」が起こりがちである、ということを、ご自身の趣味を例として挙げながら説明され、常に「用語の統一は本当に目的を果たし、訳文が読まれる現場を念頭に置いた最善の絵が描けているか、単なる機械的な置換になっていないか」を自分に問いかける必要があることを強調されました。

会場からは、「翻訳会社から用語指定があり、納得できない用語も含まれている場合はどのように対処しているか」といった質問がありました(質問内容はこのとおりではなかったかもしれません。書き殴りからの書き起こしです。大意は取違えていない積もりですので、万一、質問者の方が読んでおられましたら、どうかご容赦ください)

4名の回答をまとめると、「(社内用語や業界用語などで)適切ではないと思うものについては、一度は、コメントその他の方法で自分の意見を述べる」「その上で、聞いて貰えない場合は、その仕事はフェードアウトする」という感じでした。個人的には、F井さんだったと思うのですが、「一番大事なのは最終ユーザー(読み手)であり、そのユーザーのためになることであれば、翻訳者としてきちんと説明しようとする姿勢は大事で、その方が、最終的に評価は上がるはず」と仰った言葉が印象的でした。

その他に、登壇者の方の発言(概ね質問への回答です)で印象に残ったものを記しておくと...
「どこまで機械にやってもらうかを判断するのは人間」
「何か新しいものを導入すると、得るものがある反面、失われるものもある(紙辞書引きの際のスピード、該当単語の前後を読まなくなるなど)」
「お金をかけずに質を上げるよい方法は、スクリーンを大きくすること」
「クライアントが手をいれなくてもよい翻訳を提出するのが翻訳者の仕事である」
...などです。


4名の登壇者は、「該当文(とその周囲)しか目に入らなくなる」ということで、CATツールの使用には否定的で、使用した場合、訳文の質の向上には、使用しなかった場合と比べて多大な努力を必要とするというご意見でした。
私自身は、「使った方がなんかストレスたまりそうやな」&「ノートPC1台で仕事をしなければならない環境です」という理由で、ツールは導入していないのですが、「使用することで訳文の質が下がる」と言い切るのは、そこまでの一般化は、「最近の若者は云々」「最近の老人は云々」と言うのと一緒ちゃうん、という気持ちも...正直、ないではありません。

それに、翻訳支援ツールの使用の有無に関わらず、質の悪い参考資料を使って考えずに翻訳をしていたら、やっぱり同じような結果になるのではないかと思うのです。
以前、「翻訳支援ツールは使用していないが、『自分の頭で考える』というプロセスを飛ばして(参考資料から該当表現を拾うことに傾注して)翻訳しようとしていました<自分、これではいかんのでは」という記事を書いたことがありましたが、たとえツールを使わなくても、「考える」ことをしなければ、訳文の質を上げていくことは難しいのではないかと思います。
きちんとした文章をできるだけ多く読む、「手元にある参考資料は素晴らしいできのものかもしれないが、100%正しいものではないかもしれない」という意識を持つ、ある表現を目にしてざわっとしたらその「ざわつく」気持ちを大切にする(なぜざわついたのか考える)、といったことをこれからも心掛けていかなければ(あくまでも自分はってことですが)と、改めて自戒させてくれた、そんなセッションでした。根性で早起きしてよかったです(<普段はおおむねインド時間で生活)。


暫く(仕事も仕事以外も)バタバタしそうです(師走だし、ね)。
セッション2、3の感想記事のUPにはもう少し時間が掛かるかもしれません。暖かい目で見守ってやってくださいまし。
2016.12.01 22:58 | 翻訳 | トラックバック(-) | コメント(6) |

Binchanさん、まいどです~(←屋根裏では、2回目以降のご挨拶はこちらになります)
そうでしたか! 同じ列でしたか!
ワタクシは入口側で、左端の登壇者の方よりまだ左でした。端っこでしたが、それでもよく座れたと思います。

2016.12.03 11:43 URL | Sayo@屋根裏 #- [ 編集 ]

僕も根性出して席を取りました!
右のほうの列で、T橋さんの前の辺りです。表情などもよく見えて良かったです!

では、また。

2016.12.03 07:52 URL | Binchan #- [ 編集 ]

わーい、Connyさんだ~、まいどです~!

今も修羅場っているんですけど、なかなか心が帰ってこられません(でも、個別レポは「冷静に感想を」を心掛けてます<いちおー)。
Connyさんがあせる気持ち、分かります。国内に住んでいても、やっぱり様々な事情で、首都圏での集まりには参加しづらいです。
翻訳祭のレポについては、某実行委員の方から「いくらでも書いていいよ」と言って頂いたので、できる範囲/書いてよい範囲で、詳細にレポートしたいと思っています。

CATツールについては、ワタクシは本文でも書いたような理由で導入していませんが、正直言いますと「導入しなければこの先仕事がなくなるのでは」とぐらっとした時期もあります。まあ、室内環境(?)がそれを許さなかったわけなんですけど。
「ツールを使うと訳文の品質が落ちる」とよく言われますが(個人的には、そう言い切るのもどうかと思いますが)、落としているのは結局、使っている人間だと思うのですよね。上でも書きましたけど、使ってないワタクシだって、同じ思考回路で仕事をすれば、似たような状態になるわけだし。そこを忘れてはいけないんじゃないかな~、と最近思うようになりました(自信がないので小声)。
Connyさんのように、自分で気づいて「戻って」こられた方もいらっしゃるわけだし(ご苦労されたと思いますが)、メリットとデメリットをよく知って心して使えばいいんじゃないかな、とも思います。

>最終的に頼れるのは自分だけということですね

ですね~。だからアタマを酷使せなアカンわけで、年寄りにはなかなかツラいですよね~。

次の品質チェックのお話も、普段なかなか聞くことができないお話でよかったですよ。頑張ってまとめますね(...まとまるのか<自分...)

2016.12.02 15:49 URL | Sayo@屋根裏 #- [ 編集 ]

お久しぶりです。

海外にいるとこういったイベントに参加できなくて、日本人翻訳者として遅れちゃうな、刺激ないななんてヒジョウに羨ましく思います。といっても日本に住んでいても東京から遠かったり、修羅場中だったり、参加するには色々な障害を克服しなくちゃいけないんでしょうが(Sayoさんも先日修羅場ってましたよね)。

本題。CATツールは覚悟して使わないと品質低下につながります。体験談です。当時、四方八方に多大なご迷惑をかけました、反省。最近ようやく活用できるようになりました。

最終的に頼れるのは自分だけということですね。

2016.12.02 15:20 URL | Conny #a4Z/FfFc [ 編集 ]

渡辺様、はじめまして。コメントありがとうございます!

「翻訳のレッスン」を読んでから、一度生で話をお聞きしたいと思っておりました4名の方のセッションでしたので、根性で席取りましたよ(前から2列目)!

メモ取りは自分のためでもありましたが、昨年までのワタクシのようにさまざまな理由で出席できなかった方が、少しでもセッションの様子を感じることができれば、と思って今回のレポートを書いています。シャイなワタクシはブログを書くことぐらいしかできないので。当日の光景が浮かんでくると言って頂けて本望です(嬉泣)。がつがつメモを取った甲斐がありました。

次のS藤さんのお話は最初から最後まで1つのストーリーになっていて、メモも膨大だし、どうまとめるか悩んでいます。
仕事の納期もありまして少し時間掛かるかもしれませんが、気長に(&期待せず)待ってくださいね。

2016.12.02 13:18 URL | Sayo@屋根裏 #- [ 編集 ]

初めまして。特許翻訳をやっている渡辺と言います。

このセッションを僕も聞いたのですが、当日のことを思い浮かべながら読ませていただきました。いいえ本当は、読んでいると当日の光景が浮かんできました。

とても盛りだくさんで、とても面白いセッションでしたね!縦1600のモニターいいなぁなんて思ったりもしました。

次のセッションのお話も楽しみにしています!

2016.12.02 00:38 URL | Binchan #- [ 編集 ]













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