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2016. 12. 23  
久し振りに読書感想文です。

海堂さんの小説は結構読んでいて、「屋根裏」でも何回か記事にしています。

アリアドネの弾丸
ナニワ・モンスター

海堂尊という名前は、ワタクシの「そこに『医療モノ』の本が」センサを発動させるのよね。

...と思って読み始めたら、何ということでしょう、ソコハカとなくラノベ調味料を振りかけた感のある、青春風味成長小説ではありませんか(というような分かったようで分からない訳文は書くまいと自戒したのはつい一昨日だったような気がしないでもありませんが)。文が走りすぎている感じがしないでもない部分もありましたが、そういうところは楽しんで書かれたのでしょうか。もちろん、成長するための選択はとても厳しいものではあるのですけれど。

主人公は、かつて「ナイチンゲールの沈黙」に登場した小児患者、佐々木アツシ。本作では、アツシの中3から高1までの期間が描かれています(そして、田口先生や如月翔子など当時の面々が、それなりにエラくなってちらりと顔を覗かせてくれるのも嬉しい)。
ジツは、アツシは、医療の進歩を待つための5年間のコールドスリープから覚めたあとであり、現在は「社会に馴染む」ことを学びながら、自分と入れ替わりにコールドスリープに入った元自分の管理人の女性の管理人をしています(このあたりの経緯は前作「モルフェウスの領域」に描かれているようですが、前作は未読)。

さまざまな意味で自分の殻に閉じこもっていたアツシは、最初はこじ開けられる形ではあったものの(少なくともワタクシにはそんな印象があります)、クラスメートらに心を開いていきます。クラスメートや天才ボクサー神倉さんなど、それぞれ個性的な(個性的すぎる)キャラクターも、皆どこか憎めず。でも、そういえば、海堂さんの描かれる大人キャラも殆どがそんな感じだったかも。
「ナイチンゲールの沈黙」は「ジェネラルルージュの凱旋」と同じ時間軸を扱った作品で、ワタクシは初読時、「ジェネラルルージュ」を陽、「ナイチンゲールの沈黙」を陰と捉えたのですが、「アクアマリンの神殿」も、真面目くさった顔で面白いことを書いているのですけど、全体を覆うトーンはその延長上にあるように感じました(ラストはそうでもないですし、あくまで個人的な感想です)。

詳細は割愛しますが、スリーパーの目覚めのときが迫ってきて、アツシは、覚醒後にスリーパーの記憶を消して新しい人格として覚醒させるか、記憶を残したまま覚醒させるかの選択を迫られます。それが、大人になるための「最後の踏み絵」になっているような印象です。
乱暴に書いてしまうと、選択の際に大事なことは、最後は「気持ち」だってことなんですが、そこに至るアツシとサポータのやり取りはワタクシにはとても難しく、何度読み直しても「正しく理解した」という確信が持てません。たぶん、「モルフェウスの領域」を読んでいないから余計だと思うのですが。ひとつ推測できたのは、「モルフェウスの領域」時には、コールドスリープに関する法律や倫理問題がまだ整備されていなかったのではないか、ということ。あくまで推測ですけど。

ジツは今日、再生医療の安全性とリスクに関するシンポジウムを聴講してきたのですが、その中で「新たな技術の臨床応用では、安全性やリスクの評価方法や規制が技術の開発と同時に走っている(本来先に存在すべきものの整備が遅れがち)」というような話も出まして、本当はそこは必死でメモを取っていなければならないところなのですが、ワタクシは何となくこの「アクアマリンの神殿」のことを考えていたのですよね。
なので、他にもいろいろ書きたい記事はあるのですが、「アクアマリン」を先にしてみました。

いろいろ書きましたが、面白かったです。成長物語、好き。
アツシ、スリーパーの日比野涼子、アツシのクラスメイト麻生夏美の登場する後日譚があるのかどうか気になります。

シンポジウムの内容は、また日を(年を?)改めまして。
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Comment
Re: タイトルなし
ヨシダヒロコさん、情報ありがとうございます。
伊藤計劃のこと、ちょっと調べてきました。以前、どこかで彼のことを読んだことがあるかもしれない(早逝したSF作家、という点にかすかな記憶が)。この先は分かりませんが、今はちょっと苦手かな、という感じがしましたので、彼(とその作品)のことは記憶に留めておきますね。
Sayoさんこんばんは。

手っ取り早い「史」の紹介として、こういう番組があります。背景映像も工夫してあって絵画のようだったり。科学者・医者のダークな側面をやっています。今科学者ディスカッション付きのスペシャル終わったところですが、再放送を気長に待つか、オンデマンドかです。
http://www4.nhk.or.jp/P3442/x/2016-12-29/10/18206/2553633/

ちなみに伊藤計劃は普通のSFですよ。若くしてがんになった後デビューしているのが珍しく、患者経験はうまく昇華してあると思います。
Re: タイトルなし
ヨシダヒロコさん、ありがとうございます。
「アルジャーノン」は原書も訳書も読みました。ストーリーと文体の変化はスゴいなと思いましたが、やり切れないラストで、ワタクシはあまり好きではありません。医療関係の本も、手に取ったものの、文章が好みではなくて(エラそーですいません)続かなかったものも多いです。勉強の本ではないので、結局は「好きなものを読む」でよいのかなと。
Sayoさん、どうもです。

小説で自分の受診科で有名なのは『アルジャーノン』でしょうが、あまりに「良かった」と聞くのでへそを曲げ、割と最近になって似た路線のSF『くらやみの速さはどれくらい』が気に入りました。映画だけで原作読めてないですが、臓器提供がテーマの『わたしの中のあなた』も考えさせられました。原作とでラストが違うそうです。
他に患者さんが書いた小説として、存命中は隠していたそうですが伊藤計劃の3冊(3冊めは円城塔が加筆)があります。
科学史とかうるさいのは、その辺で修士に入れたらと思っているからです。学問自体も絶滅しかけていますし。
Re: タイトルなし
ヨシダヒロコさん、まいどです~。
小説はやはり好みもあると思うので...ワタクシは、ストーリーも含め、海堂さんの小説はやはり興味深く読みます。ときにControversialな題材もありますので、必ず共感するというわけでもないのですけど。「コウノドリ」もTV放映のとき、ときどき見ていましたよ。
再生医療は新技術なので、考えなければならない問題は多々あろうと思います。今回のシンポジウム自体は「再生医療の安全とリスクの考え方」が主で、「追いついていない」の部分は話題のひとつとして出たという感じでした。
「史」の部分は、実務ではどうしても後回しになってしまいますよね。でも、ワタクシも背景知識として「史」の部分を知っておくことは大事だと思います。なかなか時間が取れないですが...
Sayoさん、こんばんは。

海堂氏、読んではいないのですが。
『コウノドリ』いい加減追いつきたいなと思っています。あれは、いざというときにどうやったら目の前の妊婦さんが助かる?という瞬発的判断力が医師や助産師に必要だったり、何らかの事情がある人によりそう器が必要になったり、新生児と無縁なわたしでも考えますね。医学はどちらかと言えば小説じゃない方が良いかな……。例外もありますが。

再生医療は色々倫理面であると思うのですが、他の科学で画期的なことが発明・発見されたあとで悪用されたりなど面倒なことが起こるようです。だから、科学史とか医学史は大事だなと思うのですが。

高いけど、初めて化学史の本が出るそうです。大阪市科学博物館の方も書いてます。ノーベルとか毒ガス方面は絶対出てくると思います。
https://twitter.com/gakugei_osm/status/812222270789722112
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

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