屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

とりあえず...生きてますのご挨拶的に...
年内にもう一度今年を振り返ってみたいと思っていますが...
できなかった場合は「とうけいかいせきけいかくしょ」と差し違えたと思っていただければ。


アクションというとまず頭に浮かぶのは、ひかわきょうこさんという漫画家さんです。
もちろん、アクション満載の漫画や小説を書かれる方は他に数多おられるのですが、なぜかひかわさんの「彼方から」がぱっと頭に浮かぶのです。

もうデビューされて40年近くになるでしょうか、「地味で目立たない、でも一生懸命なヒロインが、過去/陰のある、でも根は真っ直ぐなツンデレの人気者と両想いになる」という、当時の少女漫画の王道をいく漫画を描かれる方でした。「王道に軸足を置きつつのアクション指向(?)」路線が明確化したのは、たしか「荒野の天使ども」の頃。そして、それが花開いたのが「彼方から」の異世界のヒーロー、イザークであったと個人的には思っています。自制心を失うと角・牙・鱗が生えるという(ほんで四つん這いになってた記憶が...)、「王道少女漫画のヒーロー的にどうだろね」な部分もあましたが、それでもイザークは格好よく、アクションシーンでは「その動き、関節的にありえねーだろ」と突っ込みを入れつつも、惚れ惚れしてしまったものです。ワタクシがあと35年ばかり若ければ、イザークに壁ドンされたかったですね。まあ、相手は二次元ですが。

「彼方から」のような映像が頭に浮かぶようなアクションを文字で描写したい、というのがワタクシの密かな野望のひとつです。
下のお話では挑戦して玉砕した、て感じでした。プロローグだけなのでアクションはありませんが。
いつかまた、自分の関節で「あーでもない、こーでもない」と色々試行錯誤しながら挑戦してみたいと思っています。

*****

プロローグ

 ポリスが現場の路地に到着したとき、男はすでにこと切れていた。
 仰向けに倒れた身体の左肩から右腹部にかけて、鋭利な刃物ですっぱり切られたような長い傷があり、そこから流れ出た血が背中の下に血溜りを作っている。臓腑に届くほど深い傷とは思えなかったが、一見したところ他に外傷は見当たらなかったから、失血によるショックが直接の死因と思われた。

 死体を検め終わった警官は、立ち上がってあたりを見回した。
 飲食店の裏口と覚しきいくつかの戸口に灯された電球の明りのおかげで、ぼんやりとだが向う端まで見通すことができた。ことさら物騒な場所とも思えない。路地とはいっても、ごく小型の車なら何とか通り抜けられないことはない程度の幅もある。もっとも、路地を入ってすぐの場所に細長のゴミ集積場があったから、実際に車で通り抜けようとする輩はいないに違いないが。

 男はその集積場の脇に、頭を路地の出口に向ける格好で倒れていた。
 第一発見者は、角のビルの地下にある安酒場の店員だった。店を閉めた後、帰宅する足でゴミを捨てに寄って、男が倒れているのに気づいたという。さては酔っ払いか、蹴って起こしてやるかと2、3歩近づいたところで血まみれの衣服と血溜りに気づき、慌てて911通報したということだった。

 それにしても、いったいどんな凶器を使えばこんな裂傷ができるのだろうと、改めて死体を見下ろしながら、警官は考えた。
 仕事柄、そしてスラム化が進みつつある旧ダウンタウン地区を抱える土地柄、20年余の勤務の中で、これまで嫌というほど殺傷事件の被害者を見てきたが、外傷が正面の裂傷だけ ―― しかもどうやらそれが致命傷らしい ―― という被害者にお目にかかるのは、これが初めてだった。
 ナイフを使えば、刺傷が残る。これは、もっと刀身の長い凶器を斜めに振り下ろしたときにできる傷だ。
 ふいに日本刀という言葉が脳裏に浮かんだ。前夜テレビでニホンの古いサムライ映画を見たせいかもしれない。確かにあれを使えばこのような傷を負わせることは可能だろう。問題は、そんな凶器は簡単に手に入らないということだ。

 小石の転がる音が彼を現実に引き戻した。反射的にホルスターに手が伸びる。だが、小石を飛ばした靴の持ち主の特徴的な足音には聞き覚えがある。先ほど酒場に待たせている通報者のもとに話を聞きに行かせたルーキーのものだ。警官は苦笑しながら緊張を解いた。振り向くと、果たしてそこにはひょろりと背の高いパートナーの若者が立っていた。

「何か分かったか」
 ポーカーフェイスをつくって問う。若者が要領よく事情聴取の内容を総括した。
 店員の話では、被害者は、この辺りをねぐらとするホームレスのひとりではないかということだった。近寄った際一瞬目に留まったこめかみの傷跡に見覚えがあるような気がするというのだ。確かに、死体の左のこめかみには引きつれたような長い傷跡がある。

 ホームレスか...と先輩警官は、内心嘆息した。道理で粗末というよりぼろに近い身なりをしているはずだ。どうせ身元を証明するものなど所持していないに違いないから、いつものように、適当に報告書をでっち上げてお蔵入りにするしかあるまい。謎の凶器に食指が動いたのも事実だったが、ホームレスの殺人事件如きにいちいち深入りしていては、身体がいくつあっても足りないのが現実だ。

「仏さんを運ぶ手配はしたんだろうな」
 彼がルーキーの若者にそう声をかけたとき、
「俺あ、見たぜ」
 路地の入り口で甲高い声がした。
 2人の警官が弾かれたように振り向くと、そこに、小柄で年齢不詳の男が立っていた。その身なりから、被害者のホームレス仲間ではないかと察せられた。

「D(というのが被害者の通称らしかった)を殺った奴をよ」
 と男は続けた。
「若い男だ。Dはそいつと何か言い争ってた ―― と思ったら、瞬きした間に男の姿が消えちまったんだ。そして、Dが血を吹いてぶっ倒れた。だから、奴がやったに違いねえ。それしか考えられねえ」

 ルーキーが先輩の視線を捉え、自分の頭の横で小さく輪を描いた。コイツ、頭がイカれてるんじゃないですか、と言っているのだ。自分も同じことを考えていた先輩警官は、若者に苦笑を返し、
「消えたってのは、どういう意味だ?」
「何でも聞いてくれ」という台詞を表情筋だけで見事に表現している男の期待に応えた。
「だから、そのまんまだって。透明人間みてえに消えちまったのよ。嘘じゃねえ」
 警官は自分の質問を呪った。まったく、つくならもっとマシな嘘をつけよ。
「で、その『透明人間』は、何か手に持っていたのか?」
 いんや、と男は即座に首を振った。
「手ぶらだった。顔は見えなかったが、そこんとこは間違いねえ」

 ふと、自分たちの注意を引くのが目的なら、もう少しましな嘘をつくだろうという考えが警官の頭を掠めた。透明人間の部分を除けば、一応話に筋は通っている。

「で、何ですぐ警察に知らせなかった?」
「人殺しの透明人間がうろうろしているかもしんねえのに、こんなとこでぐずぐずしている馬鹿はいねえ。あんたらの姿が見えたんで戻ってきたのさ。ああいう物騒なヤツはちゃんと捕まえてもらわないとな」

 やはり眉唾だな、と警官は思い直した。手掛かりと引き換えに、食事か宿か現なまか、とにかく何らかの報酬を要求する手合いに違いない。

 一陣の風が路地を吹き抜け、警官は思わずぶるっと身を震わせた。年中温暖な西海岸とはいえ、春の浅いこの季節の夜の冷え込みはまだ厳しい。こういう晩は、早く仕事を片付けて一杯やるに限る。

「それじゃ、その『透明人間』とやらの話を詳しく聞かせてもらおうか」
 大袈裟な動作で手帳を広げ、鉛筆の芯を舐めた。

「かまいたちは嗤う(Invisible Jack, the Ripper in the Modern Age)」(初稿2008年頃)
2016.12.28 14:36 | 好きなもの・こと | トラックバック(-) | コメント(0) |












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