FC2ブログ
2017. 07. 12  
今日の覚書き。
ちょっと真面目文章風に頑張ってみる。


「やさしい単語の方がジツは翻訳は難しいんだよね」
という台詞を、これまでに何回耳にし、自分でも何度したり顔で口にしてきたことだろう。

それなのに、つい2~3年前まで、私はその「難しさ」を本当には理解していなかったような気がする。今でもきちんと理解できているかどうかはアヤしいが、少なくとも、「やさしい単語の最適の訳語」に辿り着くまで七転八倒することが増えた、と思う。それだけでもなにがしかの進歩には違いない(と自分を慰めて...もとい、奮い立たせている)。

つい先日は one of the most (複数形)... に苦しんだ。次に苦しまずに済むようにと、further, most common, excellentなど、翻訳に苦しんだ単語やフレーズは、My辞書にMy訳語を追加するようにしているが、(あたりまえと言えばあたりまえだが)文脈が異なれば使い回しがきかないことも多い。 one of the most は訳語欄に「~級、~クラス、重鎮のひとり、most challenging (最)高難度の部類に属する」と記入しているが、今回はどれもしっくりこない。
愛用の「対訳君Accept」の対訳データは、ICHや薬局方の対訳も含めて、多くが「最も...なもののひとつ」という訳語を採用している。「最も...な」で複数形が連想できない場合もないではないが、「one of the most ...=最も...なもののひとつ」と機械的に当てはめた場合が多いような感じだ。
「最も...なもののひとつ」それ自体がダメということではなく、「読者が一読したときに、苦労せず『複数の過剰・過多・良質なもののひとつ』という意味が読み取れるかどうか」が重要なのだと、今はそんな風に思っている。その結果が「最も...なもののひとつ」であれば、それはその箇所では最適の訳語としてアリということになる。

Address the limitsも、最近意識の片隅に引っ掛かったフレーズのひとつ。addressは「対処する」と訳すと上手くいくことが多いので、いつもあまり深く考えずにこの訳語を使用してきたが、ふと「限界に対処するってどういうこと?」という疑問が頭に浮かぶという罠にはまってしまい、「打破する」に辿り着くまで結構な時間を要した(ついでに言うと、掃除機をかけている最中に辿り着いた)。

そうした経験を重ねていると、自分はまだまだ語彙が貧弱だという事実を再認識して愕然とする。
今はともかく、若い頃はとにかく本を読みあさった時期があるからだ。いや、だからこそ、自分の語彙力を過信し、語彙の引出しを増やし言葉へのアンテナの精度を高める努力を怠った結果が「今」なのかもしれない。


翻訳とは、「頭の中に原文が意味する『下絵』を描き、それに『作成者の意図』という若干の色をつけたものを思い描き、それを訳文に再現する」という作業だと思う(というのは、これまでに聞いたり読んだりした諸先輩方の言葉を自分なりにまとめたもので、決してひとりでここまで辿り着けたわけではない>念のため<最後まで真面目に行こうと思ったけれど、「屋根裏的不等号」やらずにいられない<屋根裏管理人のサガです、許されよ)。原文と訳文で同じ色合いになるのが理想だが、訳文の目的や性質を考えたとき、(そちらの方がベストであれば)ごくわずかな色調の変化を許容するということも、場合によってはありかもしれない。今の仕事ではまずなさそうだけど。

この頃では、絵を思い浮かべながら「この訳文は適切か、自分の好みや恣意や心地よさを優先して原文のニュアンスまで変えてしまっていないか」ということをよく考えるようになった。翻訳に時間はかかるが、そこは「最適の訳語を選ぶ」上での進歩だと思う(と自分を慰めて...もとい、奮い立たせている)。

問題は、上にも書いたように、語彙のプールが圧倒的に貧弱ということだ。
「原文の語順を変えても、等意を保ちながら言い換えができる」ということについては、この頃、多少はバラして再組立てすることが苦ではなくなってきた(>あくまで「屋根裏」比)。
なので、次は語彙の拡充が自分の課題。これまでのように「ストーリーを追う」読み方も(それはそれで息抜きになるので)継続するが、文書/書籍によっては表現やコロケーションに注意し、その場で辞書を引き、ときには書きとめる、ということをもう少し意識していきたいと思う。当面(半年程度)の目標。
NEXT Entry
逃げない夏
NEW Topics
「改めて考えよう、翻訳に必要な力」
JTFセミナー「文学作品を味わう」
One of 最上級 + 複数形と最悪について
オンライン勉強会・その後
「文芸翻訳のツボ&出版翻訳の現在」(越前敏弥)
「パンクチュエーションを読む・訳す」(深井裕美子)
「ニュース翻訳、基本のき」(松丸さとみ)
「ノンフィクション出版翻訳の素晴らしき世界」(児島修)
Comment
Re: タイトルなし
Connyさん、まいどです~。

今回は、ちょうど左手に本体を、右手にホースを持って階段の掃除をしていたときだったので、ガッツポーズはしていません(心の中で小さく握り拳しておきました)。
そう、ふとした瞬間に来るんですよね。考えていないようで、頭の片隅でずっと気になってるんですかねー。

>読書量は決して少なくないと自負していますが、最近になって(ようやくこの歳で)、読書で脳細胞に残るのはストーリーであって言い回しではないということに気づきました

そうなんです。よほど衝撃的な表現でないかぎり、時間が経つと忘れてしまうんですよね-。「おお、これもーらい!」と何かに書き付けないと駄目だということが、この頃になってようやく分かってきました。最近、宮部みゆきさんの「ペテロの葬列」を図書館で借りたのですけど、(私が宮部さんの文体が好きだからかもしれませんけど&仕事で使えるかどうかは別として)「おお!」と思う表現が満載なんですよね。で、味わって読んでいたら、2週間で読み切れなくて2週間延長し、それでも読み切れなくて、一旦カウンターで返却して即時借り出すという荒技で、なおかつ最後は「ストーリー追い読み」になりました。で、「おお」という表現は早くも記憶の彼方に消え去りました。

教訓(言訳とも言う):楽しみのために読む本は、ただただ楽しむべし。
Sayoさん

打破、いいですね。
掃除機片手にガッツポーズしませんでした?

私は訳語に悩んだときはPCの椅子を蹴ってトイレに駆け込みます。あの空間では(膀胱と)頭が空になって、たいていフッと思いつくのですよ。はい、もちろんガッツポーズ。すみません、ちょっとお下品でした。

読書量は決して少なくないと自負していますが、最近になって(ようやくこの歳で)、読書で脳細胞に残るのはストーリーであって言い回しではないということに気づきました。専門書にマーカー入れながら読んでようやく仕事で使える用語が頭に入ります。それも、そうした原文に出会ったときにアウトプットされるというか、普段はすっかり忘れています。これは私の能力不足と努力不足でしょうが、これが私のやり方、これでいいかなと。

Sayoさんの姿勢に脱帽!
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

Counter
最新トラックバック
検索フォーム
QRコード
QR