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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。


午後は、出版翻訳系のセッションを2つ拝聴しました。

昨年はノンフィクションとリーディングの通信講座を受講しましたが、正直、今、「出版翻訳を目指そう」という強い気持ちがあるわけではありません。というか、体力的にも精神的にも、産業翻訳と出版翻訳の二足のわらじを履く自信がないといった方がいいか(力があるかどうかという点は、今は忘れてやっておくんなさい)。医療機器翻訳の仕事も、これはこれでなかなか面白くて好きです。でも、音読や聴読で何冊も洋書を読んでいると、やっぱり「これを自分で訳してみたい」という書籍が何冊か出てくるのよね(「Being Mortal」もそんな1冊でした)。また、産業翻訳は、(分野や文書にもよるかと思いますが)表現の幅が若干狭い場合が多いような気がします。そこをもう少し広げたいなあという思いが常に自分の中にあります。さまざまな文を、TPOに合せて、きちんと書きたい。だから、中途半端な気持ち、ではありますが、これからも、並行して、少し範囲を広げたところにある(ような気がする)出版翻訳の勉強は続けていきたいと思っています。


そんなわけで、「出版翻訳の実際を覗いてみたい」と選択した午後の2セッション。
1つ目は、出版翻訳家のM井さんと編集者のI子さんによる楽しいセッションでした。なので、若干ユルめにレポさせて頂きました。

M井さんは、見た目は若干地味めで(その点だけ共通<でもたぶん背景同化能力は私の方が高い)、お話が面白く、お茶目な方です。
そして、心に残る文章を書かれます。といっても、私は、ブログや「Webでも考える人」の連載を拝読しているくらいなのですが。
ごく普通の日常がほとんどで、どこにでもあるような話なのだけれど、気がつくと最後まで読んでしまっている。文章力があって観察眼が鋭い方だと思います。
そして、I子さんは、きりっとしていてはきはきしていて、「すべてを私に任せて、あなたは全力でいいものを書いて」オーラのようなものが全身から発散されています。
いいコンビだと思いました。

まず、お二人の簡単な自己紹介から。
I子さんは、書籍編集者。国内外の実用書やビジネス書を中心に扱っておられますが、ジツは硬派なノンフィクションがお好きだとか。
M井さんは、翻訳家で文筆家。最近「村井さんちのぎゅうぎゅう焼き」という料理本を出版されたことをご存じの方も多いのでは。
2017年は5冊の訳書を出版し(「ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室」「朝までぐっすり睡眠プラン」「兵士を救え! マル珍軍事研究」「子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法」「人間をお休みしてヤギになってみた結果」)このうち1冊に増刷がかかったそう。原稿用紙的には2100枚超になり(ここから、編集でかなり削られるのだとか)、キーボードを2台壊したとのことでした(ウチの子は、3年使っていてまだ元気ですが...)。来年は「自分で日本語の文章を書く」ことを増やしていきたいと仰っていました。

I子さんの話では、通例、増刷されるのは10冊に1冊程度、翻訳書で1万部売れるのは1%程度なので、5分の1というのは「かなりいい成績」とのことです。

では、どうすれば、出版翻訳家になれるのか。
「コレ」という明確なステップはなく、編集者と翻訳者を繋ぐ確実なルートがないのが実情(I子)とのことでした。だから、自分から発信していかなければダメだと。
そのために、

・ブログを書く
・SNSを利用する
・お金を使う
・人を大事にする
・自分から企画書を出していく

ことを勧めておられました。

・M井さんも、ブログで制約のない文章を書いてエクササイズとすることもあると仰っていました。「日常も面白く読ませる文章力があればこの人に頼んでみようと思う」(I子)とのことで、M井さんの文章はまさにそんな感じです(ワタクシのように、オチを求め自分へのツッコミを一番に考えているようではダメってことですな<でも関西人のサガではある)。
・SNSでは、特にTwitterは、140字という制約の中で完結した分かりやすい文を書くのはかなり難しいので、凝縮した表現力を磨く練習になるのだと。M井さんも、ゲーム感覚で140字に収めようと、かなり推敲したものをTwitterに投稿されているそうです。文章の練習のひとつとして毎日投稿されるのだとか。
・「お金を使う」というのは、書籍・ツール・PCなど、自分のプラスになると思うものには惜しみなくお金を使うということです。また、心を健康な状態に保って長く書き続けるためには、欲しいものはあまり我慢せず手に入れるようにするのがいいというのが、M井さんのご意見でした。原稿料の半分はそうしたことに使っておられるそうです。
・「人を大事にする」は、煮詰まらないためにも必要とのこと(これは出版以外の分野も同じですね)。
・また、1回目でボツになることは結構多い(これには、出版社の特性が関係している場合も多々ある)ので、くさらず、企画の持込みを続けてほしいと、これはI子さんからの言葉です。その際、数値的なデータや本国での反響、受賞した賞などを含めると効果的とのことでした(これは「リーディング講座」で言われたこととも合致します)。

さらに、「これだけは気をつけよう!」ということで、最初に契約書をよく確認することを挙げておられました(このあたりは産業翻訳も同じですね)。ただ、出版翻訳では、印税は最初に決められても、出版直前まで(つまり訳出もゲラの直しも終わるまで)発行部数が確定しないことも多いのだそうです。これは、今回初めて知りました。

そうやって、企画が通り、契約が締結されると、翻訳→初稿ゲラ→赤入れと実際の作業に入っていくわけですが、この段階で、翻訳者が大切にすることは、身体・心・編集者の意見の3つというのが、M井さんのご意見です(そのとおりかと)。身体と心という2つのベースがしっかりしていないと長丁場を最後まで走り抜くことは難しく、また「最初の読者代表」である編集者の意見は大切にすべきとのことでした。「自分のスタイルを保つことも大事だが、自分の訳文に酔わず、読者に一番近い立場である編集者の意見は尊重し、最終的には読者のことを考えながら訳す」ことを心掛けておられるそうです。

セッションも終わりに近づいたところで、「出版翻訳の魅力は何だろう」という話になります。お二人はさまざまに語ってくださいましたが、「いいと思ったものが売れたときの喜びは麻薬やで!」というひと言(ワタクシが大雑把に大胆にまとめました)に集約できるでしょうか。M井さんは、常に「原著者になり代わってその人の思いを伝えたい」という思いを持ってお仕事をされているそうです。そんな風に、楽しくやりがいもあり好きな仕事ではあるものの、「翻訳がだめならXXがあるさ」という逃げ道も用意し、力を抜いて楽に仕事ができるようにも心掛けているそうです。

ここで、会場から、「これから出産を考えているが(だったと思います)、子育てとどのように両立させたのか/両立すればいいですか」という質問があり、それに対する回答が「まだおきていないことをずっと前から心配するより、5分前になって心配すればいい」というもので、Twitterを賑わせた(?)「5分前から」は、この流れでM井さんが口にされた言葉です。でも、もしかしたら、最初から楽天的だったということではなく、がむしゃらに乗り越えて踏み越えた結果、「5分前から心配しても何とかなるじゃん」という境地に達したということなのかもしれません。
お仕事もキッチンの片隅でされているそうで、その仕事環境とキーボード2台叩き割った(とご本人が仰っただけで、実際に叩き割られた訳ではありません<念のため)という事実に「全米が泣いた」と笑いを取られたりして、最後まで本当に楽しいセッションでした。
そしてM井さんとI子さんの「いっしょにいいものを作りたい」という思いが伝わってきました。編集者と翻訳者のタッグの理想形のひとつかもしれません。
2017.12.06 00:20 | 翻訳祭・フォーラムetc.報告(2016-) | トラックバック(-) | コメント(2) |

リスノさん、まいどです~。
おお、そうだったんですね。ジツは私、昨年3時間目(?)が同じ感じで。中には入れたのだけど、立ち見でした。

出版翻訳は(能力は別として<てそれ一番大事なんですけど)、産業翻訳より「これを自分の手で訳したい!」という情熱が大事なんじゃないかなという気がします。そう思ったときに、「やりたい」と現実の両方をよくみながら動いていくことが必要なように思いました。収入的に厳しいのは確かだし。個人的な印象としては、産業翻訳より「動く」ことが求められるような気がします。これはI口さんも「出版翻訳に向く人」のところで仰っていました。
てことで、「長期的にコツコツ仕事をする」以外はあんま向いてなさそうですが、出版翻訳の勉強は、医薬分野の翻訳の勉強とはまた少し違った面白さがあるので、これはこれで続けていければいいなあと思っています。

>新年早々お世話になります

おお、これるようになったのですね。鈴木さんには、出版翻訳のお話もお願いしています。大阪ではそういう話はなかなか聞けないものね。基本的に「ご自分の体験」中心のお話になると思いますが、興味深いお話聞けると思いますよ! お会いできるの楽しみにしています。

2017.12.13 16:57 URL | Sayo@屋根裏 #- [ 編集 ]

遅くなりましたがとても楽しく読みました。当日、少し遅れて行ったら会場からはみ出すくらいの人手では入れなかったのでとてもありがたいです。

以前はまったく出版に興味がなかったのですが、最近少しだけ(能力は別として)関心が出てきたので世界をのぞけてよかったです。Sayoさんは「ブログを書く」から「人を大事にする」まで企画書以外は全部していらっしゃるのでデビュー間近でしょうか(^^)

ではまた来月、新年早々お世話になります。よろしくお願いします!

2017.12.13 14:05 URL | リスノ #- [ 編集 ]













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