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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。


最後も出版翻訳のセッションにしました。S山先生の辞書のセッションとどちらにしようか迷ったんですけど。
セッションは、自身も翻訳・通訳者でライターでもあるM丸さんが、会社員と産業翻訳者の「二足のわらじ」時代を経て、ご家庭の事情から産業翻訳者として独立し、その後産業翻訳と出版翻訳の「二足のわらじ」時代を経て、現在は仕事を出版翻訳1本に絞っておられる(でいいのかしら)I口(こ)さんに「徹子の部屋」風にいろいろ質問していくという形で進行しました。
もちろん、事前にかなり打合せをされていたのでしょうが、M丸さんが「聴講者代表」のような感じでいろいろ質問してくださるので、最後に「これを聞きたい」という疑問がほとんど残らないセッションでした(M丸さんは懇親会の司会も担当された方で、アナウンサー並みに滑舌もよく、I口さんもはっきりと喋られる方ですので、お話も非常に聞きやすかったです)。


最初に簡単な自己紹介のあと、挙手で聴講者の構成を確認。ほとんどが産業翻訳者で、出版翻訳のみが多少、産業翻訳と出版翻訳の兼業翻訳者と出版翻訳学習者がそれぞれ3~4名という感じでした。

I口さんの経歴は、少し古いものですが、こちら ↓ に詳しいので、上の大雑把な説明より詳しく知りたい方はご一読ください。
私のレポのあとの方で、I口さんが「トランスクリエーション」を「普通の翻訳でしょ」と一刀両断されるくだりが出てきますが、紹介したWedgeの文章中のI口さんの訳文を読むと、そう仰るのも頷けます。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4423

この ↑ (矢印便利やな)中に書かれている「スティーブ・ジョブズ偶像復活」は、Y岡洋一さんから紹介されたもので、この後、同系統の書籍の翻訳依頼が、だいたい2冊/年のペースで続いたそう(その後、2011年に2巻本の「スティーブ・ジョブズ」が大ヒットになったことは皆さんもご存じですね)。ただ、I口さん自身は、産業翻訳者として食べていくつもりだったので、自分の方から特にアプローチしたことはなかったそうです。

(以下、M=M丸さん、I=I口さん)

M: (I口さん自身は特にアプローチはしなかった)とはいえ、一般論として有効な手段はあるか。
I: 「この人は何に興味があってどんな文章を書くのか」が分かるので、ブログは有効だろう。スタイルの異なる人の文章をまとめるのは大変なので自分は下訳を頼まないが、下訳者や共訳者として参入するのもひとつのやり方。(リーディングは有効かとの質問に)きっかけ作りとしては有効な手段のひとつだと思う。

M: 1冊目を出版後時間が空いてしまった場合、その間は何をすればよいか。
I: 1冊めをネタに営業する。産業翻訳を長くやっていることが、逆に売りになるかもしれない。「この人はよさそうな人だ(人間的にも実力的にもということと思います)と思ってもらうことが大事」

M: 産業翻訳と出版翻訳の違いは。
I: 翻訳の技術としてはあまり変わらない。台詞周りの処理が少し違うだけ。
 (そう言い切ることのできる領域に達するのが理想なのでしょうが、自分の場合は、両立したとしても「産業翻訳モード」と「出版翻訳モード」の間を行き来することになりそうです)

 * ここで、「トランスクリエーション」についてどう思うかという話になります。マーケティングの分野では、字面訳から離れたクリエイティブ色の濃い訳をこのように呼ぶようですが、「原文に書かれた意味合いを伝えることが翻訳するということなので、パッと見字面から離れていることもある。その意味では、翻訳は全部Transcreationでしょう」というのがI口さんのお考えのようです。試みに、英語と日本語でTranscreation(トランスクリエーション)をググってみましたが、そうやって出てきたいくつかの翻訳会社が「トランスクリエーション」として提示していた翻訳は、私でも、マーケティング色が濃かったり想定読者が広いと思われる場合は、ごく普通にやっているような内容でした。ただ、英語のTranscreationは、もっとCopywriting色が強い(どうかするとチームで作り出す場合もあるような)ものをイメージしているような気がします。Translation=Transcreation又は、Translationの中にTranscreationがあるのではなく、TranslationとTranscreationに重なる部分がある、みたいな。日本語で「トランスクリエーション」と言ったとき頭に浮かぶ内容は、まだ人によって少し開きがあるということなのかもしれません(とちらっと思っただけやけどな)。

I: (産業翻訳と出版翻訳の違いはとの質問に対する回答の続き) 翻訳のやり方もだいたい同じだが、1つの案件にかかる時間(1つの案件の量)が違う。また、対象読者が広がるため考えることも多くなり、1日の処理枚数も出版翻訳の方が少なくなる(だいたい半分)。

M: 訳出したデータやゲラはどのように推敲するか。
I: 章ごとにファイルを作って訳出、2、3章ごとに確認、最後に全体をもう一度チェックしてから編集者に渡す。ゲラは日本語のみを読んで修正する(ゲラの前に変更履歴入りのワードファイルをもらうこともある)。編集者は第一の読者なので(これはセッション3でも言われていましたね)、編集者の提案は大切にするが、最終的に責任を取るのは自分だから(自分の名前で訳書が出る)、納得した上でその提案に従うようにしている。
(会場からの質問に対する回答として、(ゲラ読みに余裕をもらえた場合は)朝元気がいいときは新しいものを訳し、午後疲れてきたときにゲラ読みをすると回答されておられました。その際の「切換え」はあまり気にならず、かえってリフレッシュになるということでした)

M: 訳者として名前が出ることのメリット、デメリットは。
I: メリットは信用が得られること。デメリットはいい仕事をしていないとコワいこと(信用も落ちるし、SNSなどで叩かれる場合もある)。ブログに訳文に対する意見コメントが入ることもあるが、回答はCase by case。きちんとした質問には真摯に回答している。(M丸さんから「ハートを強く持つにはどうすればよいか」との質問があり、I口さんは「(SNSなどの叩きは)見ないのが一番です」と回答されていました。

M: ぶっちゃけ儲かりますか。
I: 儲からない。印税は5~8%、初版は2000~4500部程度のことが多い。増刷は1~2/10冊程度(これもセッション3のお話とだいたい同じです)。専業でやっていると「当たる」ことも1回くらいはあるが、ギャンブルではある。

M: 契約から入金までどれくらいか。
I: 翻訳をスタートしてだいたい3、4ヵ月かけて訳すのが普通。その後ゲラのやり取りが2回程度あり、次いで、印刷・製本・発売という流れになる(で間違ってないっすか?<自分の書いた字が読めないんっすよ)。ここまででだいたい6ヵ月。発売後1~3ヵ月で入金される。

M: 儲からないのになぜ出版翻訳を続けているのか。
I: 自分の裁量権が大きい。また、著者が本1冊にしたいほどのものを訳すのは楽しい。好意的な感想を返してくれる読者もいる。訳者買いしてくれる人もいる(私も、若い頃、深町眞理子さん、食野雅子さん、永井淳さんを訳者買いしていました)。お金の都合がつきそうだったということもある。40代はがむしゃらに訳して基礎を作った。50代はガンガン訳すからやりたいものだけを翻訳するに移行する下地を作ってきた。60代はやりたいものだけを翻訳する「わがままな」翻訳者になりたい。
(このように言えるのは、実はもの凄いことだと思うんです。そのような「やりたいと選んだもの」については、必ずいいものを作りますと言い切っているわけですから。そうなるために20年かかったと仰っていますが、私は、たぶん、この先一生勉強してもその境地には到達できんのだろうなあと思います。それでも、勉強しながら朽ち果てることができれば、それはそれで(平凡な)翻訳者冥利に尽きると言えるのかもしれません。)

最後に、産業翻訳の方に向く人はどんな人かという質問があり、「瞬発力があるけれど、長いことコツコツやるのは苦手な人」「人付き合いが苦手な人」「営業が苦手な人」を挙げておられました。出版翻訳は長丁場なので、計画的に訳出を進めなければならず、編集者とのやり取りはコーディネータとのやり取りよりも深く、また、出版翻訳は動いて結果が出ることが多いからだそうです。


というわけで、午後の2つのセッションを自分なりにまとめてみると、出版翻訳をするには「楽天的+強いマインドを持つ」必要があるといえるかもしれません。
うんむ~、微妙やけど、意外に最後は「何とかなるさ」の私はいいセンいくかも(<その前に「翻訳力を磨く」という問題が厳然として横たわっているのですが忘れているようです)


***

最後に全体的な感想を(記事立てするほどではないので「セッション記事に追加」という形にしました)。
長くなりますがもう少し頑張っていただけると嬉しいです。

今年は、出版翻訳セッション以外でも、各所で「自分から外に出る」「知ってもらう努力をする」ことが大事という声を聞いたような気がします。
これからは力のある翻訳者であっても、待つだけではなく、好機を自ら掴みにいく努力をすることが求められるということではないかと思います。

ただ、忘れてはならないのは、力があってこそ自ら動いて好機を掴めるということ。そのことはいつも心の片隅において、力をつける努力は忘れないようにしたいと思います。力というのは、翻訳する力とミスのない訳文をつくる(にはどうすればよいかを考える)力で、どちらが欠けても商品としての訳文にはならないのではないかと思っています。

こうしたことが短期間にぱっとできてしまう人もいれば、私のように時間をかけないとできない人もいるでしょう。そこは、自分のやり方で伸びていけばいいのではないかと思います。正道をいくことでしか確かな力は身につかないのですから。
自分にとって最適のやり方をしなければ、いつか身体や心を壊してしまうかもしれません。「好き」で始めた翻訳だったとしても、無理な背伸びが「楽しくない」に結びついてしまうかもしれません。
もしも、翻訳祭でいろいろな話を聞いて「あれもしなければ、これも導入しなければ」と焦りばかりが先行している方がおられたら(それはまさに数年前の自分の姿なのです)、今の自分に一番必要なのは何か、どんな方向に伸びていきたいのかを考えてみて頂ければ嬉しいなと思います。そうして、自分の中に「これは譲れない」という部分をつくっていただけたら。

さて。長々書いてきた翻訳祭のレポもこれで終わりです。
明日から、「屋根裏」は週1回更新を努力目標とする通常営業に戻ります。
期間中(?)、いつもの倍以上のアクセスをいただきました。本当にありがとうございました。
どなたかの何らかの役に立っていれば、こんな嬉しいことはありません。
2017.12.06 23:39 | 翻訳祭・フォーラムetc.報告(2016-) | トラックバック(-) | コメント(5) |

M井さんのように書いて、書いて、書いて、ざっくり削れるような文章力があればよいのですが… 下手は下手なりにがんばりまするっ
v-91v-91v-91 

2017.12.07 19:31 URL | みかん2乗 #- [ 編集 ]

みかん2乗さま、
お役に立つようでしたら好きにお使いください。
こんな無駄に長い文章書いとったらあきまへんで。

2017.12.07 18:34 URL | Sayo@屋根裏 #- [ 編集 ]

Sayoさま、まいどです~。
ご快諾ありがとうございますm(_ _)m

屋根裏通信をお手本に、読みやすく、愉快で、重要ポイントを外さない文章を書けるようがんばりまするるる!


2017.12.07 18:18 URL | みかん2乗 #- [ 編集 ]

みかん2乗さま、まいどです~。
こちらこそ、ホントに久し振りにお会いできて嬉しかったですよ-。
法要...そうそうそんな季節ですね。ウチと違って親戚筋アレコレもありそうだから大変そうですね。体調崩さないように頑張ってくださいませ。
さて、本題です。
こんなんでよければ煮るなり焼くなり好きにお使いくださいませ。少しでもお役に立てたら嬉しいです。

2017.12.07 12:41 URL | Sayo@屋根裏 #- [ 編集 ]

Sayoさん おはようございます。
先日はお世話になりましたm(_ _)m
法要関連の諸々を終え、ワタクシはようやく祭の反省&まとめをスタートいたしました。遅い…

さて、本題です。
Sayoさんの本年の祭に関する一連のエントリ(計4本)を弊会のブログで紹介させていただいても(←この用法はOK???)よろしいでしょうか。

ご一考の程よろしくお願いいたしますm(_ _)m

2017.12.07 07:14 URL | みかん2乗 #- [ 編集 ]













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