屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。


フィギュアスケートファンの方は、ご存じの方も多いと思いますが、「早稲田ウィークリー」に町田樹さんのインタビューが掲載されています。
先週前編が掲載され、今日、後編がUPされました。
https://www.waseda.jp/inst/weekly/features/specialissue-skating3/

ソチ五輪シーズンの飛躍からの...翌シーズンの全日本選手権での電撃引退は、ファンの方の記憶には新しいところでしょう。
その後、ご自分のウェブサイトを開設されたので、ときどきチェックしていました。上述のインタビュー記事も、こちらのサイトで知りました。
http://tatsuki-machida.com/index.html

最初はユニークなEXプログラムが気に入り、その活躍を追うようになったのですが、ソチ五輪シーズン後、雑誌媒体でインタビューを読む機会が増えるにつれ、「感覚をきちんと(ときに饒舌に)言葉にする人だ」と思うようになりました。的確な言葉にするために、その裏でかなりの部分を「考えること」に費やしているようにも思えました。ソチ後のインタビューで(世選など大きな大会の)開催や運営にもちらと言及していましたので、引退のタイミングには驚きましたが、大学院進学という現役引退後のキャリアについては、特に驚きは感じませんでした。

でも、今回のインタビューを読むと、彼は、私の想像を遙かに超えた視野を持ち、はるか先まで見据えているようです。
「言葉で語る」ことへの言及もあり、また「言葉にする」ことで生じる責任についてもきちんと理解しています。
ここまでのことを考えていたフィギュアスケーターは、私の知る限り今までいなかったような気がします。とにかく、こんな風に理路整然とスケート界の発展やその中での自分の役割について、自分の言葉で語る人はいなかった。というわけで、今日のタイトルは「ニュータイプ」としてみました。

以下にインタビューから、いくつか引用します。
ごく一部だけを切り取るということが難しかったため、長めの引用になっています(引用元を明記しているのでいいかなと)。興味が湧かれた方は、かなり長いですが、インタビュー全編を読んで頂ければ。
下手に感想を挟まない方がいいかなと思いましたので、町田さんの言葉のみを引用しました。主な対象読者は早稲田大学の学生さんでしょうが、翻訳者としても頷ける言葉がたくさんありました(個人的には「言語化することによって、競技力が飛躍的に向上する」の部分ですかねー)。

(以下、引用はすべて上述の「早稲田ウィークリー」から)

***

「修士課程を終え、博士後期課程に進学した今、研究活動を進めれば進めるほど、学術研究という営みの中にある『怖さ』と『奥深さ』を痛感するようになりました。まず『怖さ』とは、学部や修士課程での学びは『知識を得る』という段階で済みますが、博士課程では研究の成果を学会などの公の場で発表していく上で、その一言一句には社会に対する重い責任が生じるということです。生半可なことでは『研究の成果』などと言えないですね。何よりも学問にとって必要な謙虚さを、いつでも大切にしたいと感じています」
「(奥深さについて問われて)研究にはゴールがありません。自分が解決したいという課題に対して少し近づくことができたと思ったら、また新たな課題が出てきてしまう。終着点がなく、多様性や可能性が無限に広がっているのが研究という世界なんです。肉体的な限界に縛られやすいアスリートと違って、年齢を重ねるがゆえに奥に進めるという魅力です」(前編3)

「選手生活を離れてみると、世の中は勝ち負けだけでは動いていないという当たり前のことに気づきます(中略)ですから誤解を恐れずに言えば、競技力を磨くことはアスリートにとって本義ではありますが、その能力だけで実社会を生き抜いていくことは難しい。アスリートが競技者人生の大半を費やして磨き上げるスキル(競技力)と、実社会で求められるスキルとの間に見られる齟齬(そご)が、アスリートのセカンドキャリア問題を難しくする最大の要因だと、私は考えています」(後篇1) *逆に、アスリートとしては「信念を曲げないマインド、99%の苦難の先にある1%の光を信じることを学んだとも(Sayo注)

「そんな(”表舞台で活躍しているアスリートのみならず、行政、科学、経済学などあらゆる側面から『スポーツ』がつくられている”という)視点は、現役の選手にとっても大切です。アスリートとしてのキャリアは、遅かれ早かれいずれ終わります。スポーツ科学を勉強し、スポーツ文化の広がりを知ることによって、引退後に広がるさまざまなセカンドキャリアの可能性に気づくことができるんです。実は私自身、引退の2年ほど前から研究者としてのセカンドキャリアを見据えることによって、むしろ自信を持ってアスリートとして競技に打ち込めた」(後篇2)

「解説をするにあたっては、アスリートの『体感覚』を伝えることを心掛けています。アスリートは、理屈ではなく体感覚でパフォーマンスをするものです。そんなアスリートの感覚を言語化することが、解説という仕事に課せられた一つの重要な役割だと思っています」
「私自身、現役時代から意識的に言語化することを心掛けていました。なぜなら、言語化することによって、競技力が飛躍的に向上するからです。無意識的に感じている体感覚を言語に留めておくことによって、スランプに陥った時にもう一度『こういう感覚だったんだ』と確認することができるんです。また言語化することによって、表現の説得力も向上するんです(中略)私自身、解説の仕事は、スポーツを言語化するという意味で、研究の延長として捉えているんです」(後篇3)

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現役時代は「氷上の哲学者」と呼ばれ、インパクトの強かった発言の一部がメディアに切り取られ、映像とともに繰り返し流されたため、(自分もそうだったのですが)彼が「言葉で表現する」ことにも長けた人であったことは、見過ごされがちだったように思います。
現役引退後に出演したショーの演目について、彼自身がウェブサイトで解説していますが(プログラムアーカイブ)、いずれも「伝えたいこと」が無駄なく的確な、そして豊かな言葉で表現されていて舌を巻きます。
今年もいくつかのアイスショーに出演する予定のようで、今季のプログラムが「New work, coming soon」となっています。「何を踊るのか」と併せ「どう解説してくれるのか」が楽しみでなりません。

そして、もちろん、今後どんな研究者になり、どんな風にフィギュアスケートに関わっていくのかも。
2018.04.09 21:14 | フィギュアスケート(14-15 season~)  | トラックバック(-) | コメント(0) |












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