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2019. 02. 14  

「ネバーホーム」(Laird Hunt、柴田元幸訳)

柴田先生訳を読むのは始めて。
(正確には、柴田先生訳を読んでみたくてたまたま手に取ったのがこの「ネバーホーム」)

男装して南北戦争に参加した女性のひとり語り。
…なんだけど、物語自体は、主人公の女性の視点からしか語られておらず、途中に回想やら幻覚やら混じっているので、とても分かりにくい。おそらく、自分の都合がいいように改変して語っている部分もあるだろうと思う。農場に残した夫との夫婦関係はどうだったのかもよく分からない。私は、破綻しかかっていたんじゃないかと思うけれど根拠はない。
「ネバーホーム」の意味も分からなかった。柴田先生も訳者あとがきにそう書いておられる。もしかしたら「結局どこも自分が本当に錨をおろすべき場所ではなかった」ということなのかも。私は実家にいたときからずっとそんな感じで「今いる場所が私の居場所」で特に帰るべき(帰りたい)場所はないヒトなので、そういう気持ちならちょっとは分かるような気がする。でもそれはまた別のはなし。

内容については、そんな感じでよく分からなかったので、ここまで。
あとは、柴田元幸という翻訳家に度肝を抜かれた話。

この主人公は、頭はいいけどたぶんそんなに学はない。そういう英語で語られているのだと思う。だから、通常より漢字が少なく平仮名が多い。でも、主人公の観察眼は鋭いし情況描写は分かりやすい。だから「そこそこ頭がいい」という設定ではないかと思う。最初のうちは「平仮名が多いのに読みやすいな」と思いながら読んでいた。そうしたら、3ページ目に「それってかんがえてしまう」という一文があって、私は「やられて」しまったのだった。なぜかは説明できないのだけど、これは自分では絶対出てこないし、他の方もなかなかこういう文にはできないんじゃないかという気がした。たった12文字なんだけど。

それから、この小説を音読した。どこかで、柴田先生はご自分で朗読もなさるという話を聞いたことがあったので。
そしてまたまた、平仮名が多く句点も少なく一文がかなり長い(これは原文がそうなのだと思う)のに、何て音読しやすいんだろうと舌を巻いた。語順や平仮名とカタカナの配置具合、少ない句点の位置が絶妙。けれど、やはりリズムが素晴らしいのだと思う。そして擬音語が効果的に多用されていることも、読みやすさの一因なんじゃないかと思う。最後まで気持ちよく音読した。

しばらく翻訳書から離れていたのだけど、少し思うところがあって、また色々な方の訳書を読んでみようと手に取った1冊がこれ。不用意に開いて、アッパーカットを喰らった、そんな感じ。気持ちよくノックアウトされた。そして、そんな方の翻訳書が同時代に読めることを幸せに思った。
以下に、書き留めた表現を少し書いておきます。興味が湧いた方は、まずは図書館へGOで。

「こぎれいな日ざしの毛布をアゴまでかぶっている死者」
「何かめまいみたいな気分が早足でかけてきてわたしを追いぬいていった」
「年月のげんっこつがかれの顔をさがしあてて、たしかな一撃を食わせたみたいに」
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

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