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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

 昨日、第12回勉強会を終了しました。

 課題は、引き続きSaul Bellowの『Graven Images』。今回は指定段落2段落の翻訳回です。
 病癒えた魔王…もとい管理人さんが帰還し、課題の難しさも相まって、とても密度の濃い訳文検討会となりました。

 この『Graven Images』は、前回のAnn Porterに比べれば、一読して何となく全体の意味や流れは掴みやすい(とりあえず分かった気にはなる)、けれどいざ訳出するとなると簡単な単語の訳語の選択に四苦八苦するという、なかなかに性悪なシロモノです。その原文を、私は、「ずいぶん皮肉っぽい文章だな(でも自分も皮肉の対象にしているところは嫌いじゃないわ♪)」と思いながら読んだのですが、管理人さんがTwitterでぽろっと漏らされた「重厚な」という言葉がずっと意識の片隅に引っ掛かっていました。このエッセイのどこがどんな風に重厚なのか、私には分からなかったからです。

 そこで、細かい検討に移る前に、まずその意味を尋ねたのです。そして、このエッセイが、いくつもの単語やフレーズが呼応し合った、話の流れ以外にも、単語の選択ひとつをとっても計算し尽くされた無駄のない文章であるという説明を受けました。だから、キーワードに拘りすぎると全体を見失うのだとも。そういう言葉やフレーズが互いに関係し合い重なり合ってエッセイを形作っているそのことを、管理人さんは「重厚」という言葉で表現されたのでした(というのは不肖Sayoの理解です<念のため)。

 最初にその話があったせいか、冒頭で書いたとおり、その日の訳文検討は、とても密度の濃いものになりました。

 個々の検討の中で、その日、私が「おおっ」と思ってホワイトボードに赤色で書いた内容(の一部)は、「(単語の選択レベルに始まり)読み手を裏切らない訳文をつくることが大事」「簡単な単語の訳語もその段落の中だけで決めず、全体との兼合いを考えながら決める」「そのまま訳しては分かりにくい単語は品詞転換を試してみる」などなど。いずれも、それだけ読んでも「そのとおり」と思うことばかりなのですが、実際に訳出に苦労した訳文と原文を手元に置いた状態でそういう話をすると、記憶への定着度が違います。そういうところも、勉強会を行うことの意義ではないかと思います。

 最後に、エッセイの中に散りばめられたいくつかの単語を基に、前回皆を悩ませた「(my) Old World」が見事に読み解かれ、「重厚」の意味するところを、身をもって体験することができました。

 「全体をみる」とき、また個々の単語について「なぜその単語なのか」を考えるとき、「関連性を考える」という発想は、これまであまり自分の中になかったような気がします(今回の自分の訳出過程を思い返してみると、(一部は)前後を行き来しながら実は関連を考えていたフシがないでもないですが、ともかく自分の中にそうした意識はありませんでした)。「きちんと意味を伝える上手い訳文をつくりたい」は、もちろん常に目標としてありますが、今は、こんな風に考え方の幅が広がっていくのが、毎回とても楽しみです。


 最後に、実はこれはその日の勉強会の冒頭で確認し合ったことなのですが、「仕事と直結しない(難解な)課題に取り組むことに意味はあるのか? あるとすればどんな?」
 もちろん、皆「ある」と思うから、時間を捻出して毎月課題に取り組むわけなのですが、その日、私たちが辿り着いた結論は「自分たちがやっていること(原文を書いた著者が頭に思い浮かべた『絵』と読者が訳文を読んだときに頭に思い浮かべる『絵』が同じになるよう、さまざまな点に気を配りながら訳すこと)は、種類を問わずすべての翻訳の基本である(だから意味がある)」というものでした。
 ふだん(意識的であれ無意識であれ)頭の中で「絵を描く」という行為をやっているつもりでも、慣れた案件では「分かったつもり」で絵を描かずに訳している自分に気づくことがあります。単語も、そこだけを見て「この訳語はこう」とかなり機械的に置きかえている。慣れとは怖いもので、そうした訳文でも、それなりのできにはなっているのです。そんなことが続いたあとでは、課題や難解案件で「絵を描き全体に気を配る」ことが常より難しく感じます。
 そうした「あまり考えなくてもそれなりのできになる」案件は、今後順次機械翻訳に置き換えられていくでしょう。その是非如何は置くとして、そういう流れができつつあるように思います。「もっときちんと原文の内容を伝えられる訳文をつくりたい」というのが、私が勉強を続ける一番のモチベーションですが、実際問題として、今の流れの中で翻訳者として切り捨てられないためにも、きちんと絵(それも一連の絵コンテの中の一枚一枚の絵)を描く訓練は必要だと思っています。
2019.05.11 19:16 | 勉強会 | トラックバック(-) | コメント(0) |












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