屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。

遥か以前に「読んでいます」と書いたような気がするのですが、
上下巻(新潮文庫)、やっと読了致しました。
どれほどかかっとんねん、て感じですが。

美しいけれど風変わりなブローチを手に入れた現代の女性が、そのブローチのもとの持ち主の人生を知る老女(持ち主自身はとうに亡くなっているので)を探し当て、彼女からその女性の話を聞くという形で物語が始まります。

といっても、現代の2人のやり取りは各部の冒頭部分のみで、全体は、くだんの女性ミサオの1人称(播磨弁ということですが、本当に上品な老婦人が語っているという感じです<玉岡かおるさんは、兵庫県三木市のご出身です)と3人称で語られます。1人称←→3人称のスイッチも、違和感なく読めました。

明治初期、主家のお嬢様の身代わりとして(お嬢様を身分違いの恋仲の男性と添わせるため、乳母の女性が仕組んだ)、アメリカへ留学した少女ミサオと、アメリカへ向かう船上で彼女が出会った青年桜賀光次郎との、明治~昭和初期を舞台とする波乱万丈の恋物語です(と言葉にすると、なんて陳腐なんだろう)。

光次郎のモデルは、どの角度から見ても、そもそも角度を変えて見るまでもなく、川崎重工業の前身である川崎造船所を興した松方幸次郎なのですが、ミサオという女性は、玉岡かおるさんの創造上の人物のようです。
舞台はアメリカ → 日本 → オーストリア(ミサオはオーストリアの子爵と結婚のちに死別、一方、光次郎はミサオのアメリカ留学時代の親友九鬼矩子と結婚) → ヨーロッパ全土とworld wideですし、歴史的背景も描かれていて、恋愛以外の部分も興味深かったです。

光次郎とミサオは、互いの立場を慮って我慢に我慢を重ねた末に結ばれるのですけど、そんな2人を思って切なく、また日本で家を守る矩子夫人のことを思って切なかったです。

こういう、恋愛小説だけれど、恋愛以外の部分も興味深い「女性の一代記」、けっこう好きなんですよね。
すぐに思い出せる範囲で、船山馨さんの著作(「お登勢」「続・お登勢」「蘆火野」「石狩平野」など)とか、Jeffrey Archerの「ロスノフスキ家の娘」(「ケインとアベル」のアベルさんのお嬢さんです)とか。自ら道を切り開いていく、あるいは与えられた運命の中で一生懸命生きる部分に、憧れたり(自分には出来ないので)共感したり(そうありたいと思うので)するんでしょうかねえ。

この「天涯の船」の文庫版が出版されたのは、平成18年1月。文庫版解説は、児玉清さんです。本当に本がお好きな方でしたよね。解説は、「好みの滅茶面白小説に出逢えた時の喜びは爆発的なものがあるが、世の中にはそうそう滅茶面白小説が転がっている訳じゃない。それだけに『天涯の船』を読んだときの喜びは、それこそ天に昇る気持ちだったのだ」と始まっています。さすがに「褒めすぎちゃうか~」と思わないでもないのですが、確かに、続きが気になって、「あと1ページ」とついついページをめくってしまう、そんな小説だったのでした。


SayoのBackgroundについては「はじめに」カテゴリの記事をご参照ください。
2011.06.18 13:12 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(0) |












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