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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。


2016年、2017年に続いて3回目の参加になります。
(2018年の京都は参加しとらんのかい!というツッコミはなしね)

実行委員始め関係者の皆さま、ありがとうございました&お疲れさまでした。

最初にプログラムを拝見したときは、機械翻訳関連が多いのかなという印象を受けましたが、あとでゆっくり講演内容冊子を拝見すると、機械翻訳がテーマと言ってもいくつも切り口があり、それ以外に、さまざまな視点から「(日々の翻訳作業であるいは翻訳業を続けていく上で)翻訳者としておさえておくべきこと」もちりばめられていて、それなりにバランスのとれたプログラムのように感じました。
大会組織委員長(高橋聡さん)の挨拶に「…どの道を選ぶにしても、必要なのは十分な情報に基づいた自覚的な判断です。今年の翻訳祭では、その判断の手がかりとしていただけるような24のセッションを用意しました」とありました。聞きたいセッションが被っているものもあって悩みましたが、そこからひとつを選ぶという作業から、もう「自覚的な判断」が始まっているのかもしれません。

簡単に各セッションの感想

まず、時間的に間に合わなくて、聴講したかったけれど聴講できなかった1時間目のセッションについて。

「質を守る翻訳者の工夫~原稿受領の時点から」(高橋さきの・齊藤貴昭)
聴講された方の話を伺ったり、資料を見せていただいたりしたところでは、「翻訳の品質」に焦点を当て、(頭の中で起こっていることも含めて)原稿受け取りから最終チェックまでの「翻訳」とはどのような作業なのかということを、高橋さきのさんが説明され、それを間違いなく効率的に行うためのチェックの一方法を齊藤さんが実例を示して説明される、という贅沢な内容だったようです。どちらか一方だけでは見えにくい可能性もある「なぜそれが大切なのか」が見事に可視化されたセッションだったと想像します。初めての試みであるサテライト会場(英断!)も含めて立ち見が出る盛況ぶりだったそうで、「翻訳の基本」に関する話を聞きたい翻訳者がそれだけ多いということの現れではないかと思いました。

* こうした翻訳の基本について丸一日話を聞くことができる「翻訳フォーラム・シンポジウム」、来年は6月28日の開催だそうです。詳細発表はおそらく来春でしょうが、興味のある方は、翻訳フォーラムさんのツイッターに気をつけておかれることをお勧めします(回し者ではありません<念のため)。


2時間目「機械翻訳時代のサバイバル戦略」(井口富美子・梅田智宏・加藤泰・成田崇宏)
個人翻訳者(井口さん)、翻訳会社経営者(梅田さん・加藤さん)、翻訳会社の翻訳事業部責任者(成田さん)という立場の違う4名が、それぞれの立場から語る翻訳(社/者)の未来とサバイバル。このセッションも(サテライトを含め)立ち見が出ました。メモから抜粋します(共感できなかった部分も含めて箇条書きにしています)。お話をお聞きしたかぎりでは、こちらの翻訳会社はいずれも、MTを導入しているとはいえ、翻訳者の力というものを認め、MTについてきちんと考え、PEの労力もきちんと評価しようとしている、良心的な会社であるように感じました。また、他業種から転職されたという方の、「外から翻訳業界をみる」視点は、なかなか興味深いものでした。
・本来MT-PEに人力と同等の品質を求めるのは困難。内容に間違いがないレベルを提供。
・駆け出しではなくベテラン翻訳者の方がPEに向いているように思う。
・MTエンジンの精度は分野によってまちまち。PEの作業がきちんと評価されずコスト下げ圧力がかかった場合のはけ口にされている。
・MTを使う使わない(PEをするしない)は自分次第。受けるのであれば、他の作業者のためにも条件闘争はすべき。
・今後どのように状況が変わるか分からないため、使う場合もそうでない場合も、常に(MTの)リサーチや勉強は必要。
・現状、MT出力の品質を正しく評価できないクライアントが多いのが実状。本来は、翻訳会社が、できるかできないかを顧客にきちんと説明すべきである。
・今後は「やわらかい」翻訳しか人手翻訳として残らないと思われる。そこでも、納期短縮とコストダウンは求められるだろう。
・そうした時代に生き残るために、ベテランは力をつけてほしい(専門性、翻訳力など)。新人の場合は、もし抵抗がなければ、PEを極める方向に向かうという選択肢もある。ただし翻訳会社を選ぶ際は、搾取されないよう注意が必要。
・世間の9割以上が「翻訳とは何か」を知らない。
・今後、翻訳者はどうすればよいのか? 専門を極める、信用・信頼に基づいたチームをつくる、multi-profession(複業)で生きるなどのやり方が考えられる。


3時間目「NMT+PE=医学翻訳の新たな潮流」(津山逸)
(自分=津山氏の考えでは)MTは、Translation Memory Softwareと同じような、Toranslation Toolsのひとつ。対抗し戦う相手と考えなくてもよいのでは。PEによって翻訳者の仕事の幅が広がると考えればよい。NMTの良し悪しを決定するのはコーパスの良し悪しだ。英日翻訳については、NictがR&D Head Clubと共同でAI自動翻訳システムの最適化を進めている(加盟製薬会社複数社から提供された対訳データをコーパスとして使用)。このデータを用いたMTのPE作業が今後飛躍的に増えるのではないかと思われる。それが大きな割合を占めるようになるのが避けられないのであれば、早いうちに慣れて備えておいた方がよい。翻訳会社はよいポストエディタを求めているが、人力翻訳能力が高い翻訳者でなければよいPEはできない。一見誤訳に見えるがそうではないようなものも短時間に見極める能力が必要だからだ。背景知識も必要。MT-PEでは、短時間でどれだけ多くの量を仕上げられるかが問われる。100点を求める必要はない。「ちょうどよい」レベルでよい。ただし、常に100点のものができる実力はつけておく必要がある。PEはMTの付加価値であるから、コストダウンの対象にはしてほしくない(最終的なしわ寄せがエディタにくるようなやり方はやめてほしい)。

――というのが講義全体の大意。セッションでは、通常のMTエンジンと、それに製薬会社内のコーパスを加えたものから出力された訳文の比較を行いましたが、後者(以下Adaptive)の出力は、訳文のみをさらっと読んだだけでは、ほとんど違和感が感じられない仕上がりになっていました。(医薬のこの種の文書にMTを使うという判断の是非はひとまず置くとして)正直、これならかなりの数の人間翻訳者が負けるわと思いました。あくまでもセンテンスレベルの話ですが。セッション後半では、いかに短時間で、そうしたAdaptive訳文の不備を見つけ、修正の要否を判断するかのtipsが説明されました。「よいPE」を行うための秘訣的なものとでも言えばよいでしょうか。


4時間目は、「メディカル翻訳の将来を考える」か「玄人な関係を築くための本音トーク90分」のどちらかを聴講しようと思っていましたが、常日頃一番お世話になっている翻訳会社の役職者の方とサシでお話をする機会に恵まれましたので、サボってしまいました(スイマセン)。その社の方針(かなり本音レベル)や現況をお聞きし、こちらも考えや目指したい方向についてお話することができました。感触は悪くなく、これからもよい関係が続けられるのではないかと思いました。今回の東征の(個人的)収穫のひとつです。


(感想いろいろ)
私が聞いた2つのセッションでは、ポストエディタに向くのは、知識も翻訳力も豊富できちんと判断のできるベテラン翻訳者だとされていました。その点は確かにそうかなと思うのですが、PE作業ばかり続けていると、出力される訳文以上の訳文を自力でつくれなくなるおそれがあるという負の部分(つまりMTが翻訳者に及ぼすデメリットのひとつ)への言及はありませんでした。とはいえ、PE打診時に翻訳会社側からそういう話があるはずもなく、その点は翻訳者自身が自覚しておかなければならない点だと思います。上で、Adaptive訳文はなかなか素晴らしかったと書きましたが、一般MT訳の方は、読めるものもありつつ「…」という箇所もあり、たとえて言うなら、砂抜き不十分なしじみのお料理をいただいているような感じでした。そういう文章ばかり見ていては、そんな文章しか書けなくなるのは時間の問題だと思います(少なくとも、良くも悪くも影響を受けやすい自分はそうなるに違いありません)。

以前、MT導入がなし崩しに進んでいるというような話に絡んで、MTが自動運転と対比されていたことがあったと記憶しています。自動運転では、事故が起これば死に至るおそれがあるから、開発にも導入にも慎重になる(MTはそうではない)というような話だったと思います。確かに、言葉は、比喩的に「凶器」と言われることはあっても、それ自身が刃物のように実際に人を殺めるわけではありません。けれど、言葉はコミュニケーションの基本であり、それによって得られるメリットは計り知れませんが、ときには誤解を生み人間関係を壊し人や国を争わせる原因にもなり得ます。どんな形にせよ翻訳に関わる人間は、そのことを忘れてはならないのではないかと、メモを読み返し報告書を書きながら、ふとそんなことを考えました。翻訳祭とは直接関係はありませんが。

結局、一翻訳者としては「やみくもに恐れずけれど楽観もせず、現状を正しく認識し、周りの雰囲気や声に流されず、自分の置かれた(翻訳以外の)環境も考慮し、自分の進みたい道を自分で決め、決めたらとことん努力する」というごく当たり前のことを日々やっていくしかないのかなと思います。MTへと向かう流れを否定するものではありませんが(「他社がやっているから」「顧客が求めるから」「運用できちんと」で流れていくのはどうなんだろうとは思ってしまいますが)、自分はやはり自分で翻訳をしたい。であれば、今以上の力をつけていくことを一番に考えなければならないだろうと、改めて思ったのでした。


最後になりましたが、会場や懇親会でお話できた方、新しくお知り合いになった方、お話しできて嬉しかったです。ありがとうございました。一瞬のご挨拶しかできなかった方、またの機会にゆっくりお話させてください。総じて楽しい1日でした。ありがとうございました。
2019.10.26 02:29 | 翻訳祭・フォーラムetc.報告(2016-) | トラックバック(-) | コメント(2) |

まるーべりさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

確かに、自分が翻訳を始めた頃より厳しい時代になったと感じます。

色々な考え方があって当然と思いますが、自分は「最初から自分で翻訳する」という方向を模索したいと思っています。

2019.11.04 22:16 URL | Sayo@@屋根裏 #- [ 編集 ]

機械翻訳の時代になって、翻訳者が苦しくなっていることが伝わります。

2019.11.04 11:27 URL | まるーべり #- [ 編集 ]













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