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屋根裏通信

在宅で細々実務翻訳をやってます。翻訳、英語の勉強、その時々の出来事などのんびり綴っています。


3月15日、10年以上ものあいだ(最初は姉のキャシー・リードさんと、その後は村元哉中さんと)日本のアイスダンスを支えてくれていたクリス・リードさんが、30歳の若さで急逝されました。心臓突然死とのことでした。
お姉さんと組んでおられたときは、(こちらも姉弟として見るせいでしょうか)遠慮がちに女性をリードしているという感じもありましたが、村元さんと組んでからは、もっとロマンティックな表現も可能になり、(素人なりに)新境地を開いたのではないかと思っていました。平昌五輪のFD、坂本龍一メドレーを覚えておられる方も多いでしょう。私も、あのプログラム、大好きでした。

村元さんとのペア解消が伝えられたときは本当に残念で、二人ともいいパートナーに巡り会えたらいいのにとずっと思っていました。ご存じのとおり、村元さんは高橋大輔さんとペアを組むことになりました。クリスさんの方は、残念ながら現役は引退されましたが、この春から日本でコーチとして新たな一歩を踏み出す予定だったようです。

本当に残念でなりません。
心からご冥福をお祈り致します。



「心臓突然死」という言葉を聞いて真っ先に思い出したのは、ペア・スケーターのセルゲイ・グリンコフでした。1995年11月のある日、新聞のスポーツ欄の片隅にグリンコフの訃報を見つけたときは、自分の目が信じられなかったのを、今でも覚えています(1995年11月20逝去、28歳)。
のちに妻となるエカテリーナ・ゴルデーワと組んで、カルガリー、リレハンメルと2回の五輪で金メダルを獲得しました。大好きなペアでした。大好き、と言っても、当時は五輪でのスケートしか知らなかったんですが(笑)。1997年に主人の転勤について渡米してから、TVやStars on Iceのカセット(!)でやっと昔のプログラムを見ることができました。今では、You Tubeでたくさんのプログラムを見ることができます。いい時代になったものです。

さて。
渡米した頃たまたま書店で目にしたのが、本書『My Sergei』

『My Sergei: A Love Story』(Ekaterina Gordeeva & White E. M. Swift)
https://www.amazon.co.jp/My-Sergei-Story-Ekaterina-Gordeeva/dp/0446605336

邦訳もあります(絶版で中古品しか手に入らないようですが)
『愛しのセルゲイ』(エカテリーナ・ゴルデーワ、石井苗子訳)

「& White E. M. Swift」とあるのは、おそらく、ゴルデーワの話をライターがまとめたのでしょう。まだ英語も堪能というほどではなかったと思いますので、一人称で書かれた英語はかなり平易。どちらかといえば、話し言葉よりの英語かと。
ゴルデーワの語りは、まずそれぞれの生い立ちから始まります。若いうちからペアを組み、五輪(カルガリー)で優勝、その後恋人同士から、結婚して愛娘をもうけ、再び五輪(リレハンメル)で優勝。その後完全にプロに転向し、Stars On Iceツアーなどに参加していたときに、二人を悲劇が襲います。グリンコフの死後、追悼ショーを企画した(おおむねStars on Iceのメンバーが中心でしたが、「セルゲイが尊敬していたスケーターも呼びたい」ということで、佐藤有香さんも呼ばれています)ゴルデーワが始めてひとりで滑り、娘と一緒に強く生きていくと決意するところで終わります(本書が書かれたのは、まだクーリックと出会う前です)。

二人のラブストーリーに力点が置かれているので、「フィギュアスケートの洋書を読みたい」という場合は、多少消化不良感が残るかもしれません。
フィギュアスケート関連の読みものとしては、先日「#そうだ洋書を読もう」で紹介した『The Second Mark』や、長野五輪に臨むミッシェル・クワンとタラ・リピンスキーを中心に据えた『Edge of Glory: The Inside Story of the Quest for Figure Skating's Olympic Gold Medals』(Chiristine Brennan)、フィギュアスケートの商業的側面を扱った『Frozen Asset』(Mark A. Lund)などの方が面白いかもしれません。

とはいえ、Happily ever afterで終わるはずの「その後の二人の人生」が、男性の急逝で突然絶たれてしまうというストーリーは、それが実際に起きたことであるだけに、涙なくしては読めません。ほら、私、ゴルデーワ&グリンコフが大好きだったから。

グリンコフが亡くなる場面はこんな風に描かれています。
(ここに登場するMarinaは、当時二人の振付師だったMarina Zueva。そういえば、Marinaはかなクリのコーチも務めていたんですよね。二人も若い生徒を失った彼女の気持ちは察するに余りあります)

当時アメリカはフィギュアスケートが大人気で、Stars on Iceツアーに先駆けて、レークプラシッドでその年のツアープログラムをお披露目するのが恒例になっていました。ツアーの一員として練習に参加していたゴルデーワとグリンコフが、全体練習を終え、小リンクでソロ・プログラムの練習をしていたときのことでした。


****(以下、引用)****

The full orchestra was just coming in, one of those high waves of music Marina liked so much. Sergei was gliding on the ice, but he didn't do the crossovers. His hand didn't go around my waist for the lift. I thought it was his back. He was bent over slightly, and I asked him, "Is it your back?" He shook his head a little. He couldn't control himself. He tried to stop, but he kept gliding into the boards. He tried to hold onto the boards. He was dizzy, but Sergei didn't tell me what was happening. Then he bent his knees and lay down on the ice very carefully. (Several sentences omitted by Sayo)

Marina stopped the music. When she came over to him, she knew right away it was something with his heart. It looked like he couldn't breathe anymore. She told me to call 911, and Marina started doing CPR on him. I was so scared. I was screaming, I don't know what. I forgot all the words in English. I couldn't remember the words for help. I ran to the other rink, crying, to get someone to call 911 for me.

****(引用、ここまで)****
『My Sergei』Paperback版 PP.292-293

本書(ハードカバー版)が出版されたのは1996年11月。
グリンコフが亡くなってから、やっと1年経とうという頃です。こうやって二人の人生を振り返り言葉にすることで、気持ちを整理し、自分を奮い立たせようとしたのかもしれません。
ペーパーバック版の出版に際して、Epilogueが付け加えられました(1997年夏)。悲しみが薄れた、ということはないでしょうが、それでも、周りの人たちとさまざまに関わりを持ちながら前を向こうとしている様子が描かれています。
2020.03.18 21:57 | 和書・洋書 | トラックバック(-) | コメント(0) |












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