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2020. 08. 24  

 翻訳者の高橋さきのさんと通訳者の白倉淳一さんが「語順」について考えるセッション。さきのさんのお話に、司会進行役の白倉さんが適宜ご自分の感想や意見を挟まれる、という形で進行しました。

 ここまで3名の通訳者の方が司会者や登壇者として喋られるのを聞いてきましたが、皆さん、さすがに喋るのがお上手ですね。喋り方・リズム・声質がよく、いつまでも聞いていたいという気持ちになります。通訳の技量以外に、こういう部分も通訳者として大切な資質なのではないかと思いました(翻訳者でいえば、的確に無駄のない回答やコメントができる、あたりに相当するのでしょうか……)。

 最初に、通訳と翻訳の違いを簡単な表にして説明されたとき、さきのさんは「9割くらいは同じでないと残りの1割の違いが際立たない」と仰いましたが、白倉さんの感想やQ&Aへの回答を伺って「本当にそのとおりだ」と思いました。おさえておくべき基本の部分は同じだけれど、通訳は「こんなところに着目しているのか」「こんな視点からものを見るのだな」という新鮮な驚きがいくつもあったのですよね。それが「際立つ1割の違い」にあたるのかなと。

 このセッションの内容をまとめるのはとても難しい(さきのさんがお話される内容は、いつもとても大事なことなのだけど(少なくとも私には)超絶難しく、今回も、再視聴しましたがやはりパソコンの前でこうやって唸っています)。
 頑張って(強引に)まとめると「『最初からその言葉(英→日に特化してお話されたのでここでは日本語)で書いたり話したりしたらこうなる』ように訳すことを基本とし、そのためには、読み手にどう情報を伝えるのが最適かを考え実現しようとする中で語順に着目した」話ということになるでしょうか(あくまでも私の考えるところです)。

 前半部分では、「訳し上げ」(訓読、翻訳調)を取り上げ、日本語の文体自体が変化したことに言及され、後半では、そうした「翻訳調」を避けつつ、原文の語順(情報の出し方)を活かすためにはどのようにすればよいか、どんな点に気をつけるべきなのかを説明されました。違う言語なのだから、訳せば語順が変わることがあるのは当然なのに、つい語順を変えれば自然な日本語になる部分をそのまま残してしまう(原文に引っ張られる)。どんな場合があるかということが、例示されます(蛇足ですが、例示の際に使われた『新和英大辞典』の逆引き(英単語で全文検索し用いられている用例を確認する)は、英和翻訳者にとってもとても便利です(「おお」というような訳例が掲載されていたりする)。CD-ROM辞書をお持ちの方は是非試してみてください)。
 ただし、何でもかんでも変えればよいということではなく、大事なのは「書き手(話者)はどんな風に情報を出したいと考えているのか」や「どうすれば聞いた方がストンと理解できるか」であり、「語順を変えなくても原文と同じ絵になるか否か」ということは、常に頭の中に置いておく必要があると思いました。そういう大前提があった上で、語順をどうするかとか、訳し方の引き出しを自分の中に何種類ももつとよいといった話になるのかなと。そして、その語順で「おかしい」「これでよいか自信が持てない」となった場合は、必ず原文に戻って確認する。
 今回のセッションでは、「こんな風に語順を変えることができる」という例がいくつも示されましたが、それは必ず「何のためにそれをするのか」とセットで考えなければならないのではないかと思います。
 これ以上書くとなると、もうどうまとめてよいか分かりませんので、このあたりにしておきます。

 ツイッターにも書きましたが、さきのさんのお話は、何度もさまざまな方向から色々なお話をお聞きするうちに、少しずつ理解の「点」が増え、それが「線」として繋がってきているという感じです。それでもまだまだ「少しだけ分かったつもりになっている」ことばかりなのかもしれない。要所要所で的確な感想を述べ、Q&Aに対してご自身の見解を示された白倉さんは、やっぱり凄い方だなと思いました。


 今回さきのさんのお話をお聞きして、ひとつ考えたことがありました。
 それは、さきのさん始め「翻訳フォーラム」の方々は、だいたいの場合、「これこれこういう基本とすべき点があり、よってこういう方法を使うことができる」と、原則(基礎)と方法論をセットで語ってくださるということです。「こういう場合はこうすればいい」という具体的な方法(テクニック)が実際の翻訳の場で役立つのも事実ですが、基本が身についていなければ広く応用はできないし、逆に、原則だけを頭に入れていても(もちろん、それだけで自分でどんどん応用していくことのできる方もいらっしゃるでしょうが)「ではどうすればいいのか」「それを実現するためにどういう方法があるのか」と立ち往生してしまう方も多いのではないでしょうか(少なくとも私はこちらのタイプ)。原則と方法をいったりきたりすることで、そのうち、方法論に特化した参考図書からもさらに多くの気づきが得られ、それを実地に応用することができるようになるのではないかと、そんな風に思うのです。
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Comment
Re: 点・線・面
こんにちは。
そうなんです。あまりに頭の中が高速回転していらっしゃるので(笑)、一度お聞きしただけではお伝えになりたいことのごく一部しか受け取れない感じなんですよね(その代わりと言いますか、何度お話を伺っても新たな発見があります)。白倉さんの(鋭い)合いの手は、「ナルホド」と考えを広げるきっかけにもなり、同時に「一休み」の時間にもなりました。ありがとうございました。他の方のセッションのところでも書かせて頂きましたが、白倉さんはじめ通訳の方は声のいい方が多いですね。あと、こちらが落ち着けるような喋り方をなさる。お声を聞くとホッとしました。またいつかその城達也ばりのお声をお聞きする機会が訪れますように。
点・線・面
こんにちは。白倉です。ご視聴ありがとうございます。

さきのさんのお話の裏には頭の中でいろいろとウズ巻いている考えがあるので一度聞いたのではわからないことも多いんじゃないかと思います。あまりわかってない私が適度に中断を要求すると少しは「急流」も遅くなるかと考えて思い切って参加しました。あまり邪魔になっていなかったら良かったのですが。
Re: タイトルなし
こんにちは。コメントありがとうございます。

ですよね。
私自身、数年前までは、そうしたことをきちんと考えていなかったので、「どうしてもっと早く…」と歯軋りしつつ(笑)、できるだけ意識して行き来するようにしています。
「原則と方法をいったりきたり」、とても大切と思います。
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

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