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2020. 08. 29  

 これまでさまざまな機会に帽子屋(高橋聡)さんの辞書セミナーをお聞きしてきましたが、そのたびに変化し、進化し、分かりやすく整理されていく印象があります。それはまた、私たち翻訳者をめぐる辞書環境がそれだけ目まぐるしく変化しているということの証なのかもしれません。帽子屋さんが、辞書毎の特徴をよく知る方々とお知り合いになるたびに、私たちに伝えて下さる情報は充実し、整理されていきました。「翻訳者のなり方・続け方」で、人と繋がることが大事というようなお話も出たと思うのですが、まさにそれが結実したものと言うことができるかもしれません。


 セミナーは、まず「なぜそんなに辞書を引く必要があるのか」という問いから始まりました。
 そう、フォーラムの皆さんのセミナーは、たいていこの「なぜ」(目的)から始まって、具体的な内容に展開していくんです。後半の怒濤の辞書紹介は圧巻でしたが、この部分をきちんと抑えておかないと、「どんな風に辞書を揃えていったらいいか」「なぜその辞書が必要なのか」という点が曖昧になってしまうと思うのですよね。
 帽子屋さんは、言葉を「世界を切り取るための不定型な枠」と定義されます。どう切り取りどう枠をつくるかは、辞書(編集方針)によって少しずつ異なる(辞書の個性)。同一言語内でもそうなのだから、二言語にまたがる辞書ではその差がさらに大きくなるのは当然。一対一対応は本来あり得ない。だから、英日の語義ができるだけイコールになるように、複数の辞書を引き、英々辞典や国語辞典の力も借りるのが、あるべき辞書引きである――ということになりましょうか。
 帽子屋さんはまた、「自分の語彙や言語知識はたかが知れている」というところから、原文から読み取った内容を確かに言葉で表現するためにさまざまな辞書を引く必要があるとも仰いました。語義が分からなければもちろん辞書を引くし、分かっていても(分かっていると思っても)自分の理解が本当に正しいか(その文脈でその訳語が使えるか)どうか確認するために辞書を引く。
 結局、言葉は文脈で決まるものであり、一冊の辞書の語義をどれかひとつ拾ってきても意味がない(その語義がどんぴしゃということも、もちろんありますが)。複数の辞書をひいて、ぼんやりした語義の「枠」をせばめていき、最終的に「コレ」という訳語に到達する、という作業が翻訳には必要なのだと思います。枠を正しくせばめていくには、辞書の訳語をみるだけではなく、用法や用例も確認する必要があります。それが、辞書を「引く」ではなく辞書を「読む」ということになるのかなと。

 辞書を効率よく「読む」ためには、各辞書の違いを活かす使い方をする必要があります。そのために知っておくべきは、各辞書毎の特徴(てか、この流れでええんかなと心配なのですが、私は帽子屋さんの語られるストーリーをこんな風に受け取りましたので、このまま進めます)。ということで、このあと、大中小の大きさ(収録語数)の違いによる特徴も含めた、各辞書の特徴の説明に入ります。
 その途中、「数をそろえて串刺ししてもだめ。辞書は用語集ではない」という言葉がありました。文脈を考えず、闇雲に「合いそうな訳語」を探すだけではだめなのですよね。そういえば、昔はDDWin(串刺しソフト)を使って、手持ちの辞書をとにかく串刺ししていた時期があったことを思い出します。思い返してみれば、あれは明らかに「訳語探し」だったと思います(恥)。

 英和、英々、国語、英語・日本語の類語辞典と説明が続き、話は辞書環境の変化から、アプリ、電子辞書、辞書ソフト、そしてオンライン辞書(無料・有料)にまで及びます。少し前まではPCにインストールする辞書が主流でしたが、今は、オンライン辞書(有料)を中心に、辞書ソフト+共通データを組み合わせ、足りない部分を紙辞書、アプリ、電子辞書で補うという使い方がいいのかなという印象です。

 終盤、帽子屋さんが勧める「まずはここまで」辞書環境と「できればここまで」辞書環境の紹介がありました。ナルホドねと思う内容でしたが、自分がまだ学習中の身なら気が遠くなってしまったかも(笑)。とりあえず、KOD又はJK+R Personal+国語小辞典1つ+ウィズダムあたりでしょうか…

 最後に、Takeawayの中で、当日のキーワード3つの再確認がありました。
 ・ 大は小を兼ねない
 ・ (たかが辞書)、信じるはバカ、引かぬは大バカ
 ・ 真に”辞書はお金で買える実力”となるように
 個人的には、3つ目の「真に」の部分が一番耳に痛いですね。たくさん集めても使いこなさなければ意味はないということだと思いますが、かつて、「大先輩が書籍やブログなどで勧めておられた」というだけの理由で購入し、その後書棚の肥やしになっている辞書は1冊や2冊ではありません(まあ、1年に1回くらい使うものもありますが)。たとえば、翻訳する文書の種類や分野が変わったためにあまり使わなくなった、という場合はまた話が別だと思いますが、それ以外の辞書選びに際しては、「自分は本当にその辞書を必要とするのか、使うのか」という視点を忘れずに、辞書を選んでいきたいと思います。

 そんな私が今回購入したのはウィズダム英和辞典(第4版)。書籍版を買うとウェブサイト版も使えるようになるというのはやはり魅力的です(スマホにはアプリは版を入れているのですが…そういえば、このところまったく外出しないので、アプリ版を引くことはなくなっていました)。それから、年間215ポンド(OR 295ドル)というお値段に目眩がしますが、OEDオンライン版にも食指が動いています(初年度分だけだと思いますが、90ポンドキャンペーンというのを来年3月までやっているらしいんですよね)。今後、OEDを活用できそう系のお仕事を増やしていきたいという気持ちもあるので、帽子屋さんのブログ記事を読み返したりなどして、もう少し考えよう。他にも何冊か気になった辞典がありましたが、「その辞典は今のあなたに本当に必要?、それはなぜ?」と自問しながら、少しずつ増やしていけたらと思います(予算には限りが…)。

 「翻訳フォーラム2020」に申し込まれた方は、このセミナーの資料がDLできますので、視聴する時間がなくても、DLして目を通されることを強くお勧めします。各辞書の特徴が分かりやすくまとめてありますし、巻末の参考図書や参考サイト情報も充実しています。本当にお宝だと思います。いや、帽子屋さんの回し者じゃありませんから<念のため。

 「通翻フォーラム2020」にお申し込みでない方は、帽子屋さんのブログの関連記事を読むだけでも、辞書についてかなりの知識が得られると思います。
 旧・禿頭帽子屋の独語妄言 side A http://baldhatter.txt-nifty.com/
 新・禿頭帽子屋の独語妄言 side α https://baldhatter.hatenablog.com/
 (旧ブログの「辞典・事典」カテゴリには196本の記事が収納されています)
 また、翻訳フォーラムのメンバーである深井さんが、Togetterに関連ツイートをまとめてくださっています。
https://togetter.com/li/1582546
こちらも参考にしていただければ。MacからiPadを引く等、セミナーで話題に上がり、その後実際に使用されている方が使用方法をまとめたツイートなども含まれています。


 「翻訳者のなり方・続け方」で、一時間そのテーマについて喋り続けられるだけのものがありますか?と問われたと思うのですが、体力と喉さえ続けば、帽子屋さんはきっと三日三晩でも喋り続けられたに違いありません。それほど、楽しそうに話をされていました。
 貴重な情報満載のセミナー、ありがとうございました。
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

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