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2020. 09. 02  

「ニュース翻訳 基本のき~まずはこれだけ知っておこう」(松丸さとみ)

 最初に簡単な自己紹介がありました。
 松丸さんは、1990年代にウェブメディアのはしりのような会社でスタッフライターをされたのが、ニュース翻訳との出会いだとか。2010年代になり、オンサイトでトランスクライブ(ビデオクリップを訳し自分で読み上げる仕事)をされたのち、現在は在宅でニュースと書籍の翻訳を手がけておられるそうです。オンサイト業務に従事するあいだに、「自然な日本語」というものを意識するようになり、読み言葉と書き言葉の違いを学ばれたとか。ご自分でも「時差通訳に近い仕事」と仰っていましたが、通訳(に似た立場)と翻訳の両面から「訳す」ことに触れる機会を持たれたといえるかもしれません。

 ノンフィクション翻訳の児島修さんもそうでしたが、お話をお聞きしていて感じるのは「とにかく(自分が携わっている分野の)翻訳が好き」という気持ちがびんびん伝わってくること。もちろん「好き」だけでは食べていけないわけで、自活していくためには、市場や業界の動向を睨みつつ、高単価の仕事や分野にシフトする、またそのための力をつける、といったさまざまな努力が必要になるかと思うのですが(あるいは私のようになけなしの貯金で食いつなぐ)、諸先輩方のお話をお聞きしていると、「好き」に向かう方向にシフトすべく努力することは大事だなあと、改めて思います。収入を増やす(&増えた収入を維持する)ことだけを目標に、10年、20年と定年のない仕事を続けるのは辛いのではないかなあと。

 閑話休題。
 ニュース翻訳の話でしたね。
 誌上コンテストなどで、翻訳自体は上手いのに「ニュース翻訳」がどういうものかがよく分かっていないために勿体ないと思う訳文を多数目にしたことが、このテーマで話をしようと思われたきっかけだそうです。確かに、ニュース翻訳に特化した講座やセミナーはありませんよね。

 ニュースは、大きくストレートニュース系(日刊報道)と読みもの系(雑誌記事やルポなど)の二種類に分けられるとそうですが(超短納期の前者は通訳との兼業に、また納期3日~1週間程度の後者は書籍翻訳との兼業に適しているのではないかとのこと)、セッションでは、主にストレートニュースの翻訳が取り上げられました。とっつきやすく勉強もしやすいけれど、約束事も多いそうです(英語ニュースと日本語ニュースでは情報の出し方が異なるなど)。
 松丸さんの考えるニュース翻訳とは、まとめると、「分かりやすい日本語で書かれ(読者に負担をかけ読み直しをさせるような日本語はだめ)、日本語読者に合わせてときには(最低限の)足したり引いたりが必要で、英/日の媒体で多少体裁が異なるため編集作業が必要となり(必ずしも翻訳者がしなければならないものではないようですが、リリースまでの納期が厳しいというストレートニュースの性質上、やっておくと喜ばれることも多いとか)、媒体によってさまざまに異なるもの」ということになるそうです。
 さらに、ニュース翻訳者が注意しなければならないこととして、「自分の主義主張を持ち込まない(あくまで「媒体を代表して書いている記者の目線で訳す)」「見出しがキモ(ただし編集者の手が入ることが多い)」「スピードが命」の3点を挙げられました。
 どの媒体・読者に向けて訳しているのかを常に意識しないといけないところや、自分の主義主張を持ち込んではならないというところなど、他の翻訳と同じだなあと思いますが、ニュース翻訳は、特に「独りよがりになってはならない」ことを肝に銘じて取り組まなければならない翻訳であると感じました。
 また、上述の「足したり引いたり」については、Q&Aで「どこまで?」という質問が出たように記憶していますが、あくまでも「約束事に従って必要最低限にとどめる」ということです(たとえば、原文はJohnsonとしか書かれていないものを日本語版は「ジョンソン首相」とする、社名や個人名に(その方が読者がスッと読めると思えば)「何者か」情報を付加するなど)。
 セッションでは、記事の構造や英/日の記事の書き方の違いなど、もう少し具体的な説明がいくつもあり面白かったです。「約束事に従い、短時間にどれだけ質の高い分かりやすい日本語記事に仕上げられるか」に挑戦するのが、ニュース記事翻訳の醍醐味といえるのかもしれません。

 たくさんの質問が出ましたが、そのひとつひとつに的確に回答され、滑舌もよく(ご自分でもニュースを読んでおられたことがあるというので当然か)、最後まで気持ちよく聴くことができました。具体的な質問に対する「お役立ち回答」も多数ありました。ひとつだけ、個人的に心に残ったQ&Aを。
 Q: プレスリリースを訳すときに気をつけることは?(私も個人的にプレスリリースらしきものを訳すことがありますので) A: 「自分がその会社の広報担当になったら」と考えて訳す → (多くの場合)製品を宣伝したいためのプレスリリースなわけで、当たり前といえば当たり前のことですが、これまで「とにかくキチンと訳すこと」にばかり目がいき、あまり「自分が広報担当だったら」という視点を意識したことはなかったなあと。もともと数少ないので、今後どれくらいプレスリリースに遭遇するか分かりませんが、この視点は大事にしようと思いました――というか、「著者が言いたいことを意識する」のは全翻訳の基本ですよね。まだまだ修行が足りません。

 あっという間に90分が経ってしまう、有意義で楽しいセッションでした。ありがとうございました。
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

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