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2020. 09. 24  
「文学作品を味わう―英文法をベースにヘミングウェイを読む」
(杏林大学外国語学部教授 倉林秀男)

 あっという間に一週間が経過し、記憶もあやふやになりつつある今日この頃。先日、上記タイトルのJTFセミナー(Zoomウェビナー)に参加しました。
 後日資料配付はなかったので、記憶に頼りつつ、どこまで書いてよいか迷いつつ……の報告です。

 ご登壇の倉林先生は「専門は英語文体論。ことばの表現効果について、言語学的に研究をして」(JTFセミナーページの講演者略歴より)おられるとのこと。『ヘミングウェイで学ぶ英文法』2冊に続いて、最近『オスカー・ワイルドで学ぶ英文法』が出版されました(いずれも共著)。私もここ暫く『ヘミングウェイで学ぶ英文法1』を読んでいますけど、簡単なようでいて読後「で?」となって以来ずっと敬遠していたヘミングウェイが、文法的視点からこんな風に読み解けるのかと、ある種の爽快感さえ感じています(て私の読みが浅かっただけか)。

 先生は、まず、絵画やルビンの壺を用いて「ものごとを分析的に捉える」ということを説明されます。ざっくり言えば、普段着目しないような細かな部分にもきちんと目を向けることで、表現の裏にある意味も見えてくる、というようなことかと思います。文学で言えば、この「細かな部分」が文法であり、文法をきちんと理解することで文章をさらに豊かに味えるようになるのではないか――と、そのような説明であったと思います。
 たとえば、短い会話文の法助動詞を正しく読み取ることができれば、もっと話者の心情に迫ることができるのではないか。ちょうど今『ヘミングウェイで学ぶ英文法1』の「The Sea Change」をやっているのですけど、私のような「ハッキリ、きっぱり」が好きな人間は、主人公の男女の首根っこをひっ掴んで「もっとはっきり喋れやーーー」とぶん投げてしまいたくなるのですよね(普通はならんか)。それが、文法を駆使して読み解いていくことで、「はっきり言葉にできない、したくない二人の事情」のようなものが少しずつ分かってくる(と私は受け取りました)。乱暴な言い方をすれば、文法はいわゆる「行間を読む」ためのツールの一つと言えるのかもしれません。

 セミナーでは、
● 文頭に現れる過去進行形を用いた劇的展開の予測
● There構文の重要な新情報を導入する働き
● 英語と日本語におけるyou(あなた)の重みの違い、youの効果的な使われ方
● will, be going to, be + 現在進行形の区別
 などが、実際に文学作品中にどう用いられ、その効果(役割)がどう実現されているかが説明されました。『ヘミングウェイ…』を読み始めていたとはいえ、「そこにそんな意味があるのか」「その文法からそこまで読み取ることができるのか」と驚くことの連続で、新しい扉が開いたようなワクワク感もあり(ちょっと大袈裟ですかね)、2時間があっという間でした。時間の制約もあり、「文法から読み解く」のほんの数例を挙げてくださったにすぎないと思いますが、先生の語り口でもっとお聞きしてみたいと思いました。来年朝日カルチャーの講座がまだZOOM開催なら潜り込めるかな。
 こうした説明の最後に先生が仰った言葉が大切だと思いましたので、書き取れたかぎりの内容を転記しておきます。「ただし、機械的にルールを覚えるのではなく、なぜそこでその文法が使われているのかを考えながら英文を読む努力をしてほしい。それが小説を読み味わう醍醐味であり楽しみでもあると思う」
 「なぜ」を忘れないのは、翻訳でも大切なことですよね。

 文法的にきちんと読み解くことができたからといってうまく日本語に訳せないところが、翻訳の難しいところでもあり、面白いところでもあり、楽しいところでもあり。そこからは、いかに正しく、そして豊かに日本語を使いこなせるかという問題も関わってくるのでしょう。


 セミナーでは、文法復習用の参考書籍として
 『英語運用力養成 新・英文法ノート』『英語運用力養成 新・英作文ノート』(いずれも日栄社)
 の2冊が示されました。その後数日の間に、Twitterで「購入しました」という同業者さんを多数お見かけしました(私もまずは『英文法』の方を入手しました)。何と言ってもその薄さが嬉しい(本体63ページ、そして417円!)。やっと少し時間と気持ちに余裕ができたので、少しずつやっていこうと思っていますが、できれば、これを「間違わない」のではなく「自分の言葉で説明し直せる」ところまでいきたいです。翻訳者なら本当はそれくらいできて当たり前なのかも(という私もできていないというのが現状です、はい)。

 ということで、まとめますと、楽しい2時間でありました。
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「改めて考えよう、翻訳に必要な力」
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オンライン勉強会・その後
「文芸翻訳のツボ&出版翻訳の現在」(越前敏弥)
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「ノンフィクション出版翻訳の素晴らしき世界」(児島修)
Comment
Re: No title
リスノさん、まいどです~。
わー、私も明日から頑張ってできる限りセミナー見る予定です。1ヵ月なんてあっという間ですね。
倉林先生のご著書、面白いですよ。私ジツはヘミングウェイて苦手だったんですけど「そんな読み方できるんだ~」て感じでした(でもやっぱり苦手<ヲイ)。
No title
最近、録画のセミナー消化に追われていてこちらも興味があったのですが参加できませんでした。詳しくありがとうございます!わたしもいずれご本を手にとって、勉強してみようと思いました。
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医療機器の和訳も9年目。
老眼腰痛、最近は膝痛とも闘いつつ
翻訳人生をまっとうしようと奮闘中。
この頃になってやっと翻訳の奥深さ・
難しさ・楽しさが分かってきたような。
記事は「翻訳一般」多め、ときどき読書感想文、本業(医療機器)やや少な目。
(2019年4月現在)

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